第十七話 VS 遂理宗 感想戦③&エピローグ

10:08 公明ドーム 西大会議室


「今回の僕の犯行。そのトリックの核は“凶器の誤認トリック”だ」


 対戦を終えた僕らチーム『デッドエンド』。

 対戦相手だったチーム『遂理宗』のアゴウらに乞われた僕は、自身の組み上げた俳優殺しの犯行を語る。

 


「まず僕の使っていたアバターの正体から開示しよう。僕が使っていたアバターは――令嬢だ」


「ほお。まさかあんなかわいらしい女の子がサイク殿のアバターだったとは意外じゃのお」


「たしか、『うふふ。探偵様の推理披露なんてとても素敵ですね! 楽しみです!』だったか? カハハ。推理披露ショーダウンの場面では笑いをこらえるのに必死だったぜ」


「うるさい、エンドウ。僕だって女を演じるのは心外だった」


 僕は腹を抱えて笑うエンドウへと鋭い視線を送る。

 今回の犯行では【キーアイテム】ラブレターを使用し俳優を誘導した。

 ラブレターは異性にしか効果を発揮しないアイテムだ。

 僕だって女性アバターはできれば使いたくなかったのだが苦渋の決断だったのだ。


「サイク殿、令嬢の演技はなかなか立派なものじゃったぞ」


「アゴウさんもからかわないでください。それよりも僕のトリックの話をしましょう」


「ハハハ、そうじゃのお。お主らには次の試合もあるしあまりゆっくりしている時間は無いか。して、お主はいったいどうやって短時間で俳優の死体をバラバラに解体したというんじゃ?」


「はい。僕が使ったのは【凶器】ワイヤーと、停電の舞台仕掛けステージギミックです」


「ワイヤーに、停電じゃと? いったいそれでどうやって死体をバラバラにするんじゃ?」


 僕の回答にアゴウ、ウンサイは首をひねる。

 【凶器】ワイヤーは150HPで交換できるアイテムだ。

 ワイヤーは耐久性に優れており数百キロの荷重にも切れることは無い。

 表面は非常に鋭利であり素手で扱えば指を切り落とす可能性のある危険なものだ。

 扱うには軍手が必要であり、ワイヤーを使用して殺害に成功した場合、死因ゴールに斬殺を獲得する。


「確かにワイヤーの鋭さであれば死体を切断することも可能じゃろう。耐久性も問題ない。しかし、ワイヤーで死体を切断するには相当強いけん引力が必要じゃろう。人力でやるとしたらそれこそノコギリなどの切断を専門とする刃物を使った方が早いはずじゃ」


 死体は10以上の部位に切断されておりノコギリを使ったとしてすべてを切断するのに30分以上要するという試算だった。

 いくらワイヤーが鋭利なものだとしても、物を切る専門の刃物より早く切断できる道理はない。


「はい。そこで舞台仕掛けステージギミックを使うのです。あの日、館では22時頃停電が起こりました。停電は数分で解消されますがその時に稼働したのが、発電機です」


「……まさか」


 アゴウの気づきに僕は頷く。


「発電機は一台で館内すべての電力を賄うために内部に強力なモーターが内蔵されています。発電機は俳優の部屋の窓から直線状に位置しています。俳優の体に巻き付けた状態でワイヤーを窓から外に出し、発電機のモーターに括り付ければどうなるか」


「停電が起きた際に発電機が作動。死体は自動的にバラバラに切り分けられるというわけじゃな」


「はい。その通りです」


 僕の言葉にアゴウは感心したようにうなずく。


「どうりで窓枠にひも状の痕が付いていたわけじゃ。チェーンソーなど電動の道具を使って解体するという発想はあったがまさか発電機のモーターという既存の物を使っていたとはのお。ノコギリで上手く視線をそらされてしまった。悔しいがワシは別の凶器の存在には気づけんかったわけじゃ。実に見事なトリックじゃ」


「あ、ありがとうございます」


 べた褒めされた。

 アゴウの言葉に思わず笑みが漏れる。


「サイク、顔がにやけてるぞ」


「っ!? うるさい」


「カハハッ。何も怒ることはねえだろう。褒められたんだ。胸を張ってろよ」


 まっすぐなエンドウの言葉に思わず赤面する。

 思えばトリックを誉められたのなんてここ最近ではショップ大会でエンドウと対戦した時ぐらいのものだ。

 僕はトリックに自信を持っているはずだが、作家生活を続けるうちにいつの間にかその自信が揺らいでいたのかもしれない。




「お主らとの勝負は実に得る物が多かった。そうじゃろ、ウンサイよ」


「はい、師匠。エンドウ殿、サイク殿。今度対戦する際にはより鍛錬を積みパワーを高めた我らのトリックをお見せいたす。その折にはぜひ対戦を受けてくれ」


「カハハ。そいつは楽しみだな。こっちだって成長の歩みを止めるつもりはないぜ。次に戦うときも俺たちが勝つ。そうだよな、サイク」


「ああ。僕のトリックはまだまだ進化する。次回の対戦、楽しみにしていてくれ」


 僕らは互いに向き合うと握手を交わす。

 固く握りあった手の確かさを認め合った僕らは笑顔で別れを告げる。


「さあ、勝利の余韻に浸っている暇はないぜ。次の舞台が待っている」


「ああ。もちろんだ」


 僕らは次なる試合に向かい歩き始めた。




13:00 公明ドーム 中央グラウンド


 午前中の三試合で勝利を収めた僕らチーム『デッドエンド』。

 勝ち残った16チームは中央グラウンドへと集められ、午後からの対戦組み合わせが発表されようとしていた。


「ここまでは順調に勝ち進んでこれたな。いくら大会とはいえ参加者には僕のような素人も交じっていた。さすがに同じゲーム素人であれば、今までミステリーに携わってきた僕が負けるはずもない」


「カハハ。サイク、ずいぶん強気じゃねえか。いい心意気だ。普通は犯行を成立させるだけでも難しいからな。サイクは実際優秀だぜ。しかし、ここからの対戦はシード枠のチームも参加する。一筋縄ではいかないぜ」


「もちろんだ。僕らが目指すのは秀作さんとの対戦。そして、勝利だ。他のチームに負けているようじゃどのみち秀作さんの相手は務まらない」


「カハハ。違いねえ」


 僕の決意にエンドウは笑って頷く。

 決勝大会への切符は二枠のみである。

 

 


『会場にお集まりの皆さま盛り上がっているか!?』


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 実況アナウンサーの掛け声に合わせ会場にとどろく歓声が、その中心に立つ僕ら勝ち残った16チームへと降り注ぐ。

 グラウンド中央に設置された巨大モニターに映るのはチーム名が入る箇所が黒塗りとなったトーナメント表である。


『さあ試合は進み遂にベスト16のチームが出そろった。白熱の試合を制し勝ち残った彼らに万雷の拍手を!』


「「「「「おおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 怖いぐらいノリノリの観客たちに改めて僕は自身がプレイする舞台に注がれる視線を実感する。

 テレビ中継がなされている大会。

 会場だけじゃない、日本全国の一万を超える観客たちが僕らに注目しているのだ。

 僕は熱狂する人々の歓声に鼓動が早まるのを感じる。


『さあ、さっそく午後からの試合の組み合わせを発表しよう。皆、画面に注目だ!』


――バツンッ


 ドームの照明が落とされる。

 灯りが灯るのはグラウンド中央にそびえたつ巨大モニターのみ。

 皆が息をのむ間に天井からのスポットライトの光が地面へと降り注ぐと、地面には白い文字列が輝く。

 『デッドエンド』、僕たちのチーム名だ。


 その他にもいくつもの輝く文字列が地面より浮かび上がる。

 仮想実像バーチャル・リアル技術により可能となる演出により生み出された文字が浮き上がり向かう先は巨大モニターだ。

 16のチーム名が黒塗りにされた対戦表へとぶつかると周囲に照明の光が戻る。


『注目の対戦カードの公開だ!』


 公開されたトーナメント表。

 その中にチーム『デッドエンド』の文字が輝く。


「俺たちの試合は第三試合か。対戦相手はチーム『暗い死すクライシス』。カハハ。なかなか厄介なチームと当たったぜ」


「たしか相手はシード枠のチーム、つまり強敵ってことだよな。エンドウは相手チームのことを知っているのか?」


「あ? ああ。なかなかに手ごわいチームだぜ。犯人役の土玄ドクロは鉄道ダイヤの作成をするスジ士の資格を持ち、緻密な計画を立てるのを得意とする。何重にも仕掛けたアリバイトリックを用い、解かれないよりも解くまでの時間を稼ぐことに比重を置いたスタイルだ。探偵役の礼須レイスは医学生のみでありながら高度な検死知識を持っており、死体の状況からの犯人像の分析を得意とする。犯人を決め打ちした状態で証拠を集めるため無駄がない」


「なるほど。コンセプトがしっかりしているわけだな」


「ああ。やることがはっきりしているから行動が早えし正確だ」


「ふふふ。厳しい戦いになるな」


 僕は周囲を見回す。

 四列に分かれ整列したプレイヤーの数は計三十二名。

 誰もが真剣な表情を浮かべ自身の共犯バディと今後の戦略を話し合っている。


『ではここでこの四回戦から対戦に参加するシード選手の代表としてチーム『荊姫スイーピング・ビューティ』から挨拶をもらおうか!』


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 会場からひときわ大きな歓声が上がる。


「凄い歓声だな。人気なようだが強いチームなのか?」


「ああ。この大会で優勝候補筆頭のチームだ……いけすかねえ奴らだよ」


 僕はエンドウの言葉に驚く。

 エンドウはあまり相手への嫌悪を表すタイプではないと思っていたのだが、今の言葉に僕は侮蔑の色を感じ取った。


 壇上への呼ばれたチーム『荊姫』の二人。

 一人はセーラー服を着た小柄な少女だ。

 黄色みを帯びたショートカットの髪型とキリっと上を向いた目じりからは活発で勝気な印象を受ける。


 もう一人は淡い青色のブラウスを着た女性だ。

 セーラー服の女性よりも年齢は上でその口元に湛えられた柔和な微笑を見れば、優しい大人な女性だと感じる。


 二人は階段を登りきると司会のアナウンサーからマイクを向けられる。


『私たちは名探偵として称えられる井原秀作に勝つためにここへと来たんだ。だからこの大会は通過点に過ぎないの。あんたらは私たちの邪魔をしないでよね』


 放たれた衝撃的な言葉に会場中が凍る。


『あわわ。ミカンちゃん、何言ってるの!? 皆様、すみません。ミカンちゃんには悪気が無いんです』


『なんでメイねえが謝るのよ! 私は間違ったことなんて言ってないんだから。こんな程度の低い大会はさっさと優勝して秀作をぶっ飛ばすのよ!』


『ミカンちゃん!? そんな言葉づかいはダメだよ!? 皆さん、どうか素敵な対戦をよろしくお願いします』


 不遜な態度をとるセーラー服の少女と、その言動を謝る女。


『あ、ははは。なかなかの元気じゃないか! やっぱり対戦はそのぐらいの気概で臨まなきゃね! それじゃあコメントありがとう! チーム『荊姫』のお二人に盛大な拍手を!』


 実況アナウンサーは不穏な空気を感じ取り二人からマイクを取り上げると無理やりその場を締める。

 セーラー服の女はまだ何か話したそうにアナウンサーへと視線を向けたが、もう一人に女に引っ張られ壇上から立ち去って行った。


「……ずいぶんなやつらだな」


「ああ。チーム『荊姫』。姉の井原名著メイチョと妹の井原未完ミカンの姉妹で組んでいるチームだ。残念ながら間違いなくこの予選大会で最強のチームだろうな」


「井原ってまさか…」


「ああ。秀作さんの妹達だよ」


「そんな、まさか!」


 秀作の妹があんな礼節を知らなそうな女だと!?

 ありえねぇ!


「まあ、信じられねえよな。あんな態度だが実力はあるから質が悪い」


「…不機嫌そうだな。何か因縁がある相手なのか?」


「いいや……別に何もねえぜ」


 むすっとした表情のエンドウ。

 様子は気になるが本人が話したくない話を聞きだすのは失礼だろう。


「さあ、それよりも次の対戦が始まるぜ。うおおおおおお! 次も必ず勝とうぜ」


「あ、ああ。当然だ」


 エンドウの言葉に思考を切り替える。

 正直、秀作の妹の存在は気になるが勝ち進めばどこかで当たるはずだ。

 今は目の前の相手に集中すべきだ。


 次なる相手はエンドウをして強豪と言わしめるチーム『暗い死すクライシス』だ。

 よそ事を考えている余裕はないだろう。


 僕は次なる対戦に向け意識を集中させる。




~~~~~


 作者の滝杉こげおです。

 真犯人オンラインをここまでお読みいただきありがとうございます。


 今回更新分にて第二章完結です!

 皆さまお楽しみいただけましたでしょうか?


 今は異世界ファンタジーの執筆を予定しているので、『真犯人オンライン』の次回更新までは時間が掛かると思われます。


 本作は必ず完結まで続けますので、面白かったという方はぜひ、感想、応援、レビューをくださいね!


 それでは次回更新をお待ちください。

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