第十四話 VS 遂理宗 解決編④

23:37 食堂 チーム『デッドエンド』 サイク視点


「犯人はあんただ!」


 宝石商の殺人。その犯人としてエンドウが指摘した人物とは――




「なっ!? なんで僕が。僕はやっていない!」


「いいや。宝石商の殺人。その犯行が行えたのは、コック。あんたしかいねえ」


 エンドウの付きだした指の先に居たのはコックだった。

 名前を指摘され動揺が隠せないのだろう。

 コックは立ち上がり自身の無実を訴えだす。


「僕はずっと厨房に居たんだ。二階になんて行っていないぞ。厨房は食堂の奥にあるから二階に行くには食堂と階段を通らなきゃならない。だけど20時までは食堂に人がいたし、20時以降は階段にはワックス掛けが施されて使えなかった。僕は二階に移動できなかったはずだ」


「ああ。確かにあんたの言う通りだ。20時以降一人で厨房に居たあんただがワックス掛けが施されている以上階段を使って二階に行くことはできねえ。だが、があったのならどうだろうな」


「階段以外の経路だって。そんなものあるはずないじゃないか。この館に隠し通路でもあるっていうのかよ」


「そんなものありませんな。ここは私の館です。そんな忍者屋敷みたいなふざけた仕掛けをこの館に作るわけがないじゃないですか」


 エンドウが階段以外の通路を使った可能性を示唆すると、館の主が隠し通路の存在を否定する。


「かはは。俺が言っているのは隠し通路みたいな大それたものじゃねえよ。単純なことだ。正面から入れないのなら裏から入ればいい。それだけの話だ」


「裏から、ですか? 裏とはいったい」


「正面が扉なら、裏は一つしかないだろう。部屋の窓。そこから犯人は侵入したんだ」


「いや、それはあり得ないだろう! 窓は10㎝も開かない造りになっているんだ。人間が入れる隙間じゃねえよ。それに宝石商の殺害現場は二階だ。俳優の殺害現場ならともかくどうやって外から窓にたどり着くんだよ」


 コックの反論。

 確かに道具もなしに窓から侵入することはできないだろう。

 だがそれなら相応の道具アイテムを使って侵入すればいい。


「犯人は二つの道具を使い殺害現場へ窓から侵入したんだ。窓から侵入するために解決しなければならない障害は二つ。一つは二階にある窓の高さまでどうやって移動するのか。そしてもう一つは10㎝しか開かない窓からどうやって室内の被害者を殺したのかだ」


「そんなこと、不可能じゃないか」


「いや。そんなことはねえ。まずは二階の窓の高さまで犯人はどうやって移動したのか説明するぜ。とはいえ、こっちはたいして難しい問題じゃねえ。注目してほしい点は館の構造だ。宝石商の客室は二階の南東にある。この上下は一階が社長の客室。そして三階がコックのいた厨房だ。厨房の窓は客室の物とは違って普通に開くはずだから窓から紐でも降ろして伝っていけば二階に移動することができる」


「……それなら僕じゃなくても、例えば一階からはしごでもかければ移動できる」


「まあそうだな。だが一階には社長の客室がありそこには常に人が詰めていた。はしごを使い見つからないように登るとすれば窓から少し離れた部分にはしごを設置する必要があるな。そこから窓に飛び移るのは大変だろうし、そもそもはしごは見つかってねえ。一方紐なら小さな隙間でも隠すことができるはずだ」


「……その紐とやらも見つかっていないんですよね」


「ああ。まあそれは後の調査に期待ってやつだ。これ以上質問が無いのなら次に行くぜ」


「……」


 繰り広げられるエンドウとコックの攻防。

 そして推理は対戦相手のトリックの核心部分へと迫る。


「次はどうやって10㎝しか開かない窓から室内の被害者を殺したのかだな。被害者は刀で殺されていた。10㎝の隙間からじゃ腕を入れるのが精いっぱいで窓の外に居たまま被害者を殺すことは難しい」


「そうですよ。窓は10㎝しか開かなかったんだ。そんな隙間から人を殺すなんてできるわけがない」


「ああ。その通りだ。10㎝の隙間じゃ宝石商を刀で殺すことはできない。それどころか死体につけられた傷を見れば、犯人は刀を思いっきり振りぬいて被害者の首を切ったはずだ。ならば被害者は部屋の中に全身を侵入させていたはずだ」


「だからそれは窓の隙間が10㎝しか開かないんだから不可能です」


「いいや。隙間が10㎝しかないのなら大きくすればいいじゃねえか」


「大きく、ですか」


「ああ。もちろん刀で窓を切ったわけじゃねえぜ。窓には傷や修復した後は見られなかったからな。だから犯人は窓を壊したんじゃない。道具を使って取り払ったんだ」


「うっ!?」


 コックがエンドウの言葉を受け体をのけぞらせる。


「そう。窓が無ければそこにあるのはただの穴だ。人間が通るには十分な大きさとなる。窓は大きなボルトでしっかりと固定されていたが、それならボルトを外してしまえばいい。犯人は三階の厨房から紐を伝い二階の客室の窓へと移動。工具を使いボルトを外し、窓枠を取り去り侵入したんだ。宝石商が客室に居る時にそんなことをすれば気づかれるだろうから犯行が行われたのは宝石商が客室に戻ってきた瞬間。事前に侵入していた犯人が喉を切りつけることで、大声を出せなくし殺害したんだ」


「う、うううう。でも、僕は」


「そしてそんな犯行ができるのは、宝石商の客室の真上にあたる厨房で一人作業をしていたコック。あんただけなんだよ!」


「ぐっ、無念ッ! 自白サレンダーだ」


 エンドウの追求を受け、遂にコックに扮していた対戦相手――ウンサイが自白サレンダーを宣言する。




『おめでとうございます。対戦相手が自白サレンダーを宣言しました。あんたの勝利です!』




『うおおおおおおおおおおお! やったな、サイク』


『ああ! 最後はいい追及だったぞエンドウ。お疲れ様』


 勝利のアナウンスを受け僕らは互いのプレイングを誉め、喜び合う。


 こうして僕たちチーム『デッドエンド』は地方予選大会の初戦を勝利で飾ったのだった。

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