第十三話 VS 遂理宗 解決編③
*
23:31 食堂 チーム『デッドエンド』 サイク視点
「アゴウ、残念だったな。さあ、今度はこっちの番だぜ!
エンドウの放つ力強い宣言により場の視線がエンドウへと向く。
『エンドウ、頼んだぞ』
『ああ、任せておけ! 爆裂に決めてやるぜ』
勝負の舞台は整った。
ここから先はこちらの攻撃だ。
渾身のロジックを放つべくエンドウが自身の推理を語りだす
「アゴウの推理も惜しいところまではいっていたようだが、答えは完全に間違っていたようだな。それを今から俺が証明してやる」
「うぬぬ。確かにワシの推理が間違っていたというのは認めざるを得ぬようじゃ。しかし、エンドウ殿。お主の推理があったおる確証もない。その推理とやらを聞かせてもらおうかのお」
意気込むエンドウに冷めた声を浴びせるアゴウ。
二人は鋭く視線を向けあい、場の熱量はグングンと上昇していく。
「まずは俺も前提から話しておこうか。俺が推理するのは宝石商の殺人の方だ。宝石商は二階の自身の客室で殺されていた。死因は現場に落ちていた日本刀での斬殺。被害者の頸部にはその際にできたと思われる真一文字の刀傷が残されていた。殺害現場の扉には鍵がかかっておらず、被害者は部屋に一人だった。普通に考えれば誰にでも犯行が可能な状況なんだが……」
「殺害現場である二階は、階段のワックス掛けにより広義の密室となっていたのじゃよな」
自身のチームの犯行なのだ。殺害方法など十分承知しているはずのアゴウが白々しくも宝石商の犯行の不可能性を語る。
「ああ。二階に出入りするためには階段を通らなければならないわけだがその階段は20時以降、使用人たちの手によりワックス掛けが施され通れば足跡が残る状態だった。足跡が残っていない以上誰も階段を使っていないと考えるしかないわけだ」
「しかしお主はその犯行を行うことができた犯人が分かったというわけじゃな」
「ああ、もちろんだ」
エンドウの宣言。その気迫のこもった声に周囲がざわめく。
「ほお。面白い。ならば説明してみせてくれんかのお」
「当然だ。まずは関係者のアリバイから確認するぞ。宝石商の生存が確認されているのは19時半まで。それ以降は自室でこもっており犯人を除けばその生きた姿を見た者はいない。一方、館に居た人間にはそれぞれアリバイがある。館の主と社長は19時以降行動を共にしている。男女使用人、令嬢は20時まで食堂にいた。20時以降男女使用人はワックスがけを開始。令嬢は一度自室に戻るが20時15分に使用人と合流した。21時にワックス掛けが終わった際に一階で一度解散するが21時5分に再度三人は使用人の部屋で集まっている。コックは20時に使用人に姿を確認されているが以降は一人で厨房で作業していたため目撃証言が無い」
「使用人を除きそれぞれアリバイの無い時間があるが、20時以降ワックス掛けがあり、誰も二階には立ち入ることができなかったのじゃよな」
「ああ。だが、あんたの推理によって状況は変わっているぜ。館の主が社長に対し時間誤認トリックを使ったのだとすれば、ワックス掛けが始まる20時よりも前に犯行を終え、部屋に戻ればいいんだ」
「また私が疑われているのか!? 私は宝石商様のことも殺していませんよ」
再び標的にされた館の主は狼狽しながらも必死に自身の無実を訴える。
「他に犯行が可能な人物がいない状況だ。アゴウの推理であんたなら犯行が可能だとされている以上、あんたが容疑者筆頭になるのは道理だろう」
「いいや、私じゃない……そうだ! 私がトイレに行く前のことです。令嬢様が“森のくまさん”を歌いながら部屋の外を通り過ぎていく声を聴いています。令嬢様が食堂を出たのが20時以降のはずなので私がトイレに向かったのは20時以降となるはずです」
「社長。令嬢の歌が聞こえたという館の主の証言は本当か」
「……ああ。そういえば聞いていたな。そのころにはお酒が入っていたがまだ意識ははっきりしていた。間違いないぞ」
「私も! 食堂から部屋に戻るとき、テンションが上がって森のくまさんをうたっていたのです。『
「いや、それ森さん大丈夫かよ。だいぶ間違いだらけな気がするんだが……つまり館の主にはちゃんとアリバイがあったわけだ」
エンドウの言葉に館の主は安堵の表情を浮かべる。
「おおっと、エンドウ殿。それでは宝石商殺しの犯行が可能な人物がいなくなってしまうのお」
「早合点するなよ。今のはただの別解つぶし。ここからが面白いところじゃねえか。まあ、令嬢の声を録音しておけば社長に時間を誤認させることも可能だろうが偶然録音していたものと同じ歌を令嬢が歌っていたというのはさすがに無理筋だろうな」
「なかなか勿体つけるのお。本当はお主、犯人が分かっておらぬのではないか」
「はっ! 笑わせてくれるぜ。種明かしは推理の最後と相場が決まってんだよ。まあ、だが言われっぱなしもしゃくだな。いいぜ、教えてやるよ。犯人の名前を」
食堂に集まる一同をエンドウが見回す。
その視線が止まった先に居たのは……
「犯人は、あんただ!」
エンドウが指さした人物に場には驚きで染まる。
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