第十一話 VS 遂理宗 解決編①
*
23:20 食堂 チーム『デッドエンド』 サイク視点
「さて。お主らに集まってもらったのはほかでもない。この館で起きた二つの殺人事件の犯人が判明したからじゃ」
発動された
一同が席に座る中、正面に立つ一人の人物のみが立って皆と正対していた。
これから始まるのはチーム『遂理宗』アゴウによる推理披露だ。
僕の額には冷や汗が流れる。
まさか相手チームに先を越されることになるとは。
マイナス方面へと流れる思考――いや、大丈夫だ。
僕のトリックがこんなにも早く破られるとは思えない。
相手は僕の用意した
僕は気持ちを奮い立たせ自然とこわばる表情を無理に押しとどめる。
「探偵殿、犯人が分かったとは本当でしょうかな。一体誰が、なんのためにこんなひどいことをしたというのです」
探偵の言葉に反応したのは館の主だ。
椅子から立ち上がると探偵へと疑問を投げかける。
「うむ、ワシは犯人を突き止めた。そして、その人物は当然この中におるのじゃ」
アゴウの言葉に場は騒然となる。
「探偵殿は私の客人の中に犯人がいると申すのですかな。私にはこの中にあんな残虐な殺人を犯すものがいるとは思えませんが。そもそも二件の殺人はどちらも犯行が不可能とされていたはずではないですかな」
「いいや。それは犯行をごまかすため犯人が弄したトリックじゃ」
「トリック、ですか。その犯人というのは誰なのですか」
「まあ、勿体つけることでもないかのお。こういうのは最後に取っておくのは常道じゃろうがここで言ってしまうぞ。犯人は、あなたじゃ!」
アゴウはまっすぐと腕を伸ばし人差し指をある人物へと突きつける。
その指先が指し示す先に居た人物は館の主、その人であった。
「なっ。私ですかな!? 私はやっていない! 無実です」
「いいや、犯人はあんたじゃ」
語気を荒げる館の主に探偵はすました顔で相対する。
場の皆の視線は探偵と館の主の間を往復している。
そこへ向ける視線に宿るのは疑い半分、恐怖半分といったところだろうか。
食堂は探偵と館の主の周りを除いて静寂が支配する。
「そもそも被害者である二人は私の客人だぞ。なぜわざわざ館に招いた客人を私が殺さねばならないんだ」
「そんなことワシが知るはずないじゃろう。
「なっ!? それはあまりに薄情ではないですかな。そもそも私には社長と一緒に居たというアリバイがあるはずです」
激高する館の主。
被害者が最後に生存を確認されたのは宝石商が19時半、俳優が20時だ。
つまり二人の殺害が行われたのは19時半以降となる。
一方館の主は19時には社長と共に社長の客室に向かっており、そこで死体が発見される23時まで社長と談笑していたというアリバイが存在する。
「うむ。じゃが、お主はトイレに立った際に単独行動をとっておる」
「それは確かにそうですが……それはほんのわずかな時間だけですな」
館の主と社長は19時以降は二人で同じ部屋に居たわけだが、23時までに間に二度単独行動をとった時間が存在する。
館の主は20時半、社長は21時50分にそれぞれがトイレへと行っていた。
当然片方がトイレに行っている間、二人にはアリバイが存在しないことになる。
「私たちがトイレに行っていたのはそれぞれ5分程度のことです。その間に人を殺すことなんてできるわけがないでしょう」
「いいや、それはトリックを使えば可能なのじゃ。それを今からワシが証明してみせよう」
二人の間に散る火花。
館の主と社長がトイレに行っていたのはせいぜい5分程度のことだというのは両名が証言している。
真犯人オンラインではNPCを共犯にすることはできず、犯人役であるプレイヤーは一人である。
館の主と社長が二人で口裏を合わせ故意に嘘をついているという状況は考えられない。
アゴウはアリバイの問題をいったいどんなロジックで解決するつもりなのだろうか。
「解決編を始める前に、まずはワシの推理方針を説明しておこうかのお」
「なんですか、推理方針というのは」
「今回、この館では二件の殺人が起きたじゃろう。二件の殺人を同時に説明していては話が込み入ってしまう。そこでワシが今から話すのは俳優の殺人についてのみにしようかと思っておる。同じ館で二件の殺人が起きたのじゃ。犯人が別と考えるよりは同一犯であると考える方が自然じゃろう」
「……それでなぜ俳優の方の犯行なんです?」
「単純に説明がしやすいからじゃ。実を言えば宝石商の方の犯行はロジックの細部が詰めれておらんのじゃ。しかし、犯人が野放しになっているこの状況を放置しておくわけにはいかんじゃろう。ゆえに先に説明可能な俳優の殺人を解明しようというわけじゃ」
「二件の殺人が同一犯であるという解釈は強引ですが、俳優を殺した者がいるならばどのみち捕まえなければいけないというわけですかな。まあいいでしょう。私はそれで構いません」
アゴウの言葉に館の主を含めた皆から反対意見が上がることは無かった。
二つの殺人の犯人が同じであるという根拠はないのだが、これは片方の殺人の真犯人が確定した時点で勝敗が決するゲームシステム上の仕様のようなものだ。
当然僕もアゴウの言葉に反対意見は挟まない。
「では話を進めて行くぞ。まずは俳優の事件記録の確認じゃ。俳優が最後に生存を確認されているのが20時。死体が発見されたのは23時じゃ。殺害現場は俳優の客室である1階の南側に面した中央の部屋。死因は体がバラバラに解体されていたため特定はできんが、血の付いたノコギリが傍らに落ちておった。他に凶器らしきものは部屋の中から発見されておらんから、犯人は何らかの方法で俳優を殺害後、ノコギリを用いて死体をバラバラにしたのじゃろう」
詳細に語られる俳優の死の状況。
僕を含めた全員がかたずをのんでアゴウの推理を聞く。
「犯行現場の扉は鍵がかかっておらんかったために、誰でも殺害現場には侵入することが可能じゃった。しかし、ここからが問題じゃ。館に居る全員が犯行現場にたどり着けないか、アリバイがあり犯行を行うことが不可能じゃったのじゃ」
「そうです。私にはアリバイがある!」
「そう急くでない。順を追って説明しておるじゃろう。まずは全員のアリバイの再確認じゃ。事件当時この館の中には被害者二人を除き六人の人間がおった。館の主と社長、男女使用人はペアで行動し、令嬢もほとんどの時間使用人と行動を共にしていた。コックは一人で三階の厨房にこもっていたが階段にワックスがけが施されており一階へ移動することはできんかった」
「そうです。私は社長と一緒に居たのです。犯行は行えません」
「しかし、お主は途中でトイレにたっておるだろう。社長もトイレに向かっておるから5分ずつ、計10分のアリバイの空白となる」
「10分なんかで犯行は行えませんよ。俳優様の死体はバラバラにされていました。死体をバラバラにするのは重労働ですし、返り血も浴びてしまう。殺害と後処理のことを考えれば犯行に30分はかかるはずです」
死体は10以上のパーツに分解されていた。館の主のいう通りノコギリで死体を切断したのだとすればどんなに少なく見積もっても30分以上を犯行に要することとなる。
普通に考えれば館の主だけでなく、社長や令嬢など他のアリバイに穴のある人物でも犯行を行うことはできないのだ。
しかし、館の主のアゴウはニヤリと笑みを浮かべる。
「お主の言う通り普通に考えればこの犯行にかかる時間は30分を超える。じゃが、ある道具を使えば、お主にだけは犯行が可能になるのじゃ」
アゴウは自信満々にそう宣言すると、あるアイテムを懐から取り出した。
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