第十話 捜査編 side 遂理宗②

23:08 屋外 チーム『遂理宗』 アゴウ視点


 倉庫の調査を終えたワシはその足で屋外へと向かう。

 外は雨がすでに止んでおり、地面はぬかるんでおる。

 雨はワシらが館に着いたのと同時に降り止んだという設定じゃったか。


 念のため、靴跡を探してみるがワシらが館に来た時の分も含めて見当たらなんだ。

 どうやら雨に洗い流されたようじゃのお。

 これでは仮に誰かが外に出ていても足跡は残っていないじゃろう。


「俳優の部屋の窓は、ここじゃな」


 ワシは俳優の部屋の前へと移動すると、窓から目を凝らし部屋の中を覗きこんだ。

 うむ。血のせいで視界が悪いが、中の惨状が見えないほどではないのお。


 ワシが屋外に来たのは窓枠に紐が擦ったような痕跡を見つけていたからじゃ。

 これは今回の対戦相手の犯行で付いたものじゃろう。

 こんな痕跡がゲーム空間にある建造物であるこの館に犯行前から付いていたとは考えづらいからのお。

 

 痕跡が示すのは窓からひも状の物を用いて犯人が現場に細工を施したという可能性じゃ。

 もしそうならば犯人は屋外にも出ているはずである。

 屋外を調査し何か証拠が見つかれば儲けものじゃ。


 ワシは俳優の部屋の窓の正面に立つと改めて屋外を見渡す。

 南西側には森を通過するための小道と駐車場がある。

 真南には停電により現在も稼働中である発電機が設置されておる。

 南東側には非常時用に作られたという井戸が設置されておる。


 ワシは駐車場に近づく。

 そこには4台の車が停められておった。

 ワシは事前にHPで交換しておいた【キーアイテム】マスターキーを懐から取り出した。


 このアイテムは館の主にのみ所持が許された職業専用アイテムじゃ。

 効果は鍵穴があるタイプの鍵のロックをすべて外すことができるというもの。

 150HPもするが効果は破格の物であった。

 犯人が舞台から出ることができない以上、証拠となる品は必ず舞台のどこかに隠されておる。

 このアイテムで探し出せない証拠品は無いのじゃ。


 ワシは順番に停まっている車の中を検めていく。

 犯人が証拠を隠していることを期待したが、どうやらここには何も隠されていないようじゃ。

 まあ、車の中から証拠品が見つかれば車の持ち主が犯人だと疑われるじゃろう。

 さすがに相手もそんな愚は犯さぬわな。




 次にワシが向かうのは発電機じゃ。

 発電機はゴウンゴウンという機械音を鳴らしながら現在も絶賛稼働中であった。

 停電中の今、館の電力を支えているのはこの発電機一機のみ。

 確か、ガソリン式で強力なモーターを回転させ電力を生み出しているんじゃったか。

 予想以上にうるさい騒音にワシは顔をしかめる。


 停電が起きたのが確か22時じゃったよな。

 その際は3分程館の中は暗闇となったはずじゃ。

 暗闇をうまく利用すればその間も犯行は可能じゃろう……とはいえ、今更3分程度犯行時刻が伸びたところで状況に変わりはないかのお。




 ワシは最後に井戸の下へと移動する。

 井戸は深く、夜の暗闇の中ではワシの視力パワーをもってしても底を見通すことは難しい。

 ワシは【キーアイテム】懐中電灯を取り出すと電源を入れる。

 

 深さは4メートル程かのお。

 水は透き通っており、光を当てれば井戸の底まで見通すことができた。

 どうやらここにも証拠の品は無いらしい。

 何か新たな手掛かりが見つかることを期待していたのじゃが。

 ワシはガクリと肩を落とす。


 うーむ。屋外はこれ以上何もなさそうかのお。

 舞台の範囲となるのはは森の手前までじゃ。犯人が森に踏み入ったり、投げたりして証拠品を隠すことはできぬ。

 調べた箇所以外に物を隠せるような場所は見当たらないしのお。 

 念のため館の周りも一周してみるが予想通りめぼしい証拠品は見当たらなかった。

 ワシはため息をつきつつ屋内へと戻る。


23:13 客室(俳優) チーム『遂理宗』 アゴウ視点


 俳優の客室の前へと戻る。

 客室の前には女性使用人、社長、令嬢が三人で固まって床へと座り込んでおった。


「すまんのお。社長と令嬢にもう一度アリバイを確認させてもらえんか」


「探偵様、皆様のアリバイなら先ほど確認されたはずですが」


 ワシは突破口を探すために再度容疑者たちから証言をとることにする。

 女性使用人から不審の目を向けられるが、そんなものに構ってはおられん。


「ああ。どうしても気になることがあってのお。社長と令嬢にはそれぞれ事件当時の状況を確認しておきたいのじゃ」


「私のアリバイに何か不審な点でもあっただろうか?」


「私のことに興味がおありなのですね! 探偵様にならなんだって話しちゃいますよ!」


 社長は渋い顔で、令嬢は華やいだ顔で、それぞれ態度こそ異なるが聴取には応じてくる。


「それで、私たちは何をお話しすればよろしいのですかな」


「では、まず社長から話を聞こうかのお。事件当時のアリバイの再確認じゃ。お主は事件当時、館の主と行動を共にしておったのじゃよな」


「ああ。一人となったのはトイレに向かった時ぐらいだな」


 館の主と社長がトイレに向かったのはそれぞれ、館の主が20時30分、社長が21時50分じゃ。

 証言ではどちらも5分程で戻ってきたそうじゃが。

 

「社長にはその時のことを詳しく話してもらおうかのお」


「……詳しくって言ってもなあ。別にいいが特別なことは無かったぞ。俺たちは高校時代からの知り合いでな。連絡は取りあっていたんだが、直接会うのは15年ぶりだ。お互い経営者として成功をおさめ、ようやく自由な時間を持てるようになったってわけだ。そりゃあ学生時代の話や経営の苦労話で盛り上がったものだ」


「いや、ワシが聞きたいのは起きた事象についてじゃぞ」


「ははは。わかっているさ。夕食を食べ終えて俺たちは19時に俺の客室に向かった。館の主がワインを開けてくれたからそれを飲みながら話し込んでいたんだ。酔いが回って俺が少し眠くなりだした20時半ごろ、館の主はトイレに向かったな。俺は少し眠かったからその間はまどろんでいたよ。館の主がトイレから戻って俺を起こしてくれた。部屋の時計を確認すれば5分程経過していた。短時間でも眠気はすっかり取れたから俺たちはまた話し合った。夜遅くなり、俺もトイレに行きたくなって席を立ったんだ。戻ってきたときに時計を確認すれば22時55分だった。そして停電が起きた」


「なるほどのお」


 うむ。今の話、気になるところがあったのお。


「お主がトイレに行くとき、何時だったか時計は確認しなかったのか?」


「ああ。時計は俺の背中側に位置していて、しかも立ち上がらないとタンスが邪魔して見えない位置にあったからな」


 ……これは、決まりじゃろうか。

 ワシは内心で笑みを浮かべる。

 しかし油断は禁物じゃ、一応令嬢の方もアリバイを確認しておこうかのお。


「令嬢さんも事件当時のことをもう一度詳しく伺ってもよろしいかのお」


「はい! 私、こんな素敵な館に来れて浮かれていたのです。木目調の素敵な家具に、外に広がるのはファンタジーに出てくるような暗い夜の森。あっちこっちを見て回っていました。夕食後は女性管理人さんと話していたのですが旦那さんとのなれそめなどのとても素敵な話が聞けました。お仕事の邪魔になるかとも思ったのですが、そんなそぶりは一切見せないで笑顔で話してくれましたよ。それで私、感激しちゃってワックス掛けが終わって部屋に戻っても寝付けなかったんです。結局使用人さんたちの所に行ってお話をしましたわ。とても刺激的な一日でした!」


「……そうか。ありがとうのお」


 うーむ。何じゃこの要領を得ぬ説明は。

 まあ、女性使用人から彼女のアリバイの裏はとれておるから問題はないかのお。

 ……となると犯人の可能性があるのはやはり、一人だけじゃ!


推理披露ショーダウンじゃ!」 


 ワシは勝利へ続く宣言を口にする。

 頭の中でくみ上げたロジックを反芻しながら、ワシは決戦の場へと臨んだ。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


皆様、こんばんわ。

ここまで楽しんでいただけてますでしょうか?


次回から解決編が始まります。

両陣営の犯行は読者視点であればここまでの時点で推理可能となっております!


さて、推理合戦の結果はどう転ぶのか、お楽しみに!

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