第三話 VS 遂理宗 犯行編①
*
『サイク! 聞こえるか?』
何もない真っ暗な空間。
ヘッドモニターから聞こえてくるのは抑揚のない合成音声だ。
『ああ。聞こえている』
『こっちもばっちり聞こえてるぜ! 通信機能は正常に働いているな!』
エンドウからの通信に僕は小さくうなずく。
ヘッドモニターを通せば同じ陣営のプレイヤーは音声のやり取りが可能だ。
もちろん声に出して通信を行えば相手陣営に聞こえてしまう。
ヘッドモニターが脳波を読み取り、合成音声として相手のスピーカーから音声を流すのだ。
これが
ちなみにプレイヤーの視界も共有でき、相手の視界を見たいときはテレビ画面のワイプのように右下に相手の視界が表示される。
『それにしても一回戦の相手が坊主たちとは、驚いたな』
『ああ。あそこまで押しが強い対戦相手には俺も初めて当たるぜ。サイクもいい引きをしてるな!』
『いや、別に僕は何もしてないぞ。厄介ごとに巻き込まれるのは探偵の方の得意分野だろ? つまりエンドウが悪い』
『かははっ。もしそうなら探偵冥利に尽きるがな』
スピーカー越しに伝わってくるエンドウの豪快な笑い声。
僕も思わず苦笑を漏らしてしまう。
『それでサイク。今回はどんなトリックを使うつもりなんだ』
『それを決めるのはまずは
2VS2の
同じ陣営のプレイヤーが二人になったことで以前のショップ大会のルールと多少異なるところがある。
犯行パートに参加するプレイヤーは一陣営に一人だけであり、探偵役となったプレイヤーは犯行に参加できない点もその一つだ。
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名称:探偵
効果:プレイヤーのみ取得可能な肩書。
犯行時刻の間、活動不可。
・以下の効果は顔合わせ場面で肩書を公表した場合のみ有効
発言の説得力が増す。NPCとの会話中自身の意見が通りやすくなる。
『探偵の』と付いた【キーアイテム】の使用制限を一回増やす。
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犯行が可能な犯人と、調査に有利なアイテムを使用できる探偵。
それぞれが力を発揮して勝利をつかむのが共犯バトルだ。
ゆえに、僕は僕の仕事をするまでだ。
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今回の
今回は山の中腹に建てられた洋館がステージとなる。
木々の生い茂る森の中に建つ三階建ての洋館。
地上との唯一の連絡路であったつり橋が落ち、クローズドサークルが成立した状況だ。
ターゲットは男性俳優。
館には一人で宿泊に来ているようだ。
宝石やワインなど高いものを好むが、審美眼は持っておらずよく詐欺にあうらしい。
ゴールは斬殺か絞殺。
斬殺は刃物などの斬撃が死因となったものだ。刺殺も刃物を凶器として使うが、真犯人オンラインでは刃渡り20㎝以上の刃物での殺害を斬殺、20㎝以下の刃物での殺害を刺殺と定義している。
絞殺はひも状のもので首を絞める殺人だ。素手で首を絞めた場合は扼殺となる。
ロープやワイヤーなどの凶器のほか、靴紐などで絞殺した場合でも絞殺にあたる。
『ステージの横に表示されている【通行禁止】とか【停電】っていうのはなんだ』
『ああ、それは
僕はエンドウの指示に従いステージギミックを注視する。
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【通行禁止】:午後8時以降に階段を使用した場合目撃判定が付く。
【停電】:午後10時に館全体に停電が発生。10秒ほどで回復。
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うーん。どちらも行動を阻害するものだが、うまく犯行に組み入れることができれば有利に立ち回れそうだな。
続けてターゲットのスケジュールを展開する。
今回の犯行時刻は19時~23時の4時間。そのうちの1時間で犯行を終えなくてはならない。
ターゲットは20時に初期位置である食堂から展示室に移動。
以降は犯行時刻終了時まで展示室からは出てこない。
『前にエンドウと戦った時と比べると少し複雑なステージだ』
『ああ。なにせ予選とは言っても大会だからな。犯行を成立させるのに多少工夫が必要になってくるぜ』
『ふふ。条件が複雑な方がトリックは仕掛けやすい。僕としてはやりやすいな』
こう見えて僕は困難に燃えるタイプだ。
そうでなければ秀作に挑もうなどという大望は持たない。
まだ思考する時間はある。焦らず行こう。
斬殺に絞殺、凶器、ステージギミック、不可能殺人。
頭の中でそれらのイメージが渦巻き、トリックを紡いでいく感覚。
僕は思考のつながりを確固たる形にするため、より詳細なステージ情報を表示する。
電気や水道といったライフラインは山のふもとから地下を通して引いているようだ。
災害時に備え発電機と井戸も設置されている。
発電機はガソリン式のもの。
停電時に自動で作動し、モーターを回転させることでそこに取り付けた磁石とコイルの間で電気を発生させる。
モーターは非常に強力な特注のものが使われており、館内すべての電力を一台の発電機で賄うことができる。
井戸は山を流れる地下水を引いたもので深さは20メートル程。
ロープにぶら下がった桶を井戸の底に降ろし、たまった地下水をくみ上げる手動式のものだ。
つり橋は屋敷から1㎞程進んだ場所にかかっている。
以前から老朽化しており、強風にあおられ22時の段階で交通は遮断される。
ターゲットは俳優の男。
この洋館には主が所有する宝石を見に来ているそうだ。
高級嗜好を持ち、高級品の贈り物であれば喜んで受け取ってもらえるだろう。
うん。アイデアが降りてきたぞ!
『トリックが決まった』
『おう。速えな。一体どんなトリックにするんだ』
『今回使うのは誤認トリックだ』
一瞬の沈黙。
僕の発言を聞いたエンドウからは疑問の声が聞こえてくる。
『誤認トリックってことは俺がサイクとの試合で、目撃者に自身の体を死体と間違えさせたように、何かを何かに勘違いさせるトリックのことか?』
『ああ。その認識で相違ない』
『それだと何も説明していないのと同じじゃねえかよ。あの時のサイクのトリックだって気圧差により扉が開かないのを鍵がかかっていると勘違いさせるトリックだし、大なり小なりトリックっていうのは誤認の要素を含むものだろ』
『ふっふっふ。まあ、ミステリーでネタバレはご法度だからな。見ていてくれ。僕もエンドウと戦ったあの時からいくつか場数を踏んでいるんだ。あの時よりももっとすごいトリックを見せてやるから』
『おお、なんか面白そうだな』
『ああ。期待していてくれ』
僕は自身の紡いだトリックを思い一人笑みを浮かべる。
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名称:軍手 必要HP:10
効果:手を守る防具。切り傷、擦り傷から素肌を守るが衝撃には無力。
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名称:ラブレター 必要HP:50
効果:異性のNPCを対象とする
このアイテムを渡した対象を指定した人気のない場所におびき出す
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名称:睡眠薬 必要HP:150
効果:服用した対象を睡眠状態にする
解説:水に完全に溶け、無味無臭
服用した者は犯行時刻の間、絶対に目を覚まさないのであります!
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名称:高級ワイン 必要HP:50
解説:時価数百万のワイン。贈答用に 。
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名称:注射器 必要HP:50
効果:液体や気体を針先から注入するのに使用
解説:ガラス製。凶器として使用するには耐久性に難あり。
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名称:懐中電灯 必要HP:30
効果:暗所で視界を確保する。使用した際にはNPCから目撃される可能性がある。
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名称:リュックサック 必要HP:10
効果:背負いカバン。容量まで荷物を収納できる。
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トリックが決定したら次はアイテムの交換だ。
僕はHPを使い次々とアイテムを交換していく。
計350HPを使い残るHPは150。
僕は残るポイントで交換可能な【凶器】を最後に入手する。
ちなみに探偵役であるエンドウにも犯人役である僕よりかは少ないが200HPが与えられている。
探偵と犯人の財布は別会計なのだ。
『おいおい、エンドウ。アイテム交換をいきなり始めやがって、チームメイトの俺にも相談は無しかよ』
あきれた声でエンドウからの通信が入る。
『ふふふ。さっきも言っただろ。エンドウもクライムサスペンスは嫌いじゃないだろ? どうせ探偵役のエンドウでは犯行時刻の間はできることがない。せっかくのトリックだ。口で説明するよりも実際に見てもらった方が面白い』
まあ、エンドウは僕が交換したアイテムをすべて見ているんだ。
犯行が始まればすぐに僕が仕掛けようとしているトリックに気づくことだろう。
『チッ。まあいいぜ。俺はサイクのことを信頼しているからな。つまらないミスはすんじゃねえぞ』
『ああ。それよりも僕はエンドウの方が心配だ。僕との対戦の時のようにヘマはやらかさないでくれよ』
『それこそいらん心配だ! 犯行は苦手だが推理なら俺にミスはねえ。まあ、お互い頑張ろうぜ!』
通信機能越しに互いへのエールを送る僕ら。
そして、いよいよ犯行時刻がやってくる。
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第二章のステージの見取り図をtwitterにあげております。
↓↓↓↓↓
https://twitter.com/takisugikogeo6/status/1341355034982764546
是非見取り図を参考に推理を進めてください。
以上、ご確認の程よろしくお願いします。
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