第十三話 VS 烈火の探偵 エピローグ
「いやあ、負けちまった。完敗だぜ!」
試合を終えた僕の前に立つのは赤髪の熱血青年、エンドウである。
僕とエンドウは互いの健闘を称え、硬い握手を交わす。
「まさかあそこから
「今回の
そう、今回はたまたまエンドウが捜査時間中に単独行動の必要なトリックを使ったためにアリバイに空白ができたのだ。
その結果エンドウは僕の犯行を立証しきれず、戦いが続いたのだ。
エンドウのアリバイに穴が無ければ僕はそのまま負けていた。
僕のトリック自体は完膚なきまでに見破られており、試合には勝ったがゲーム内容はエンドウが僕を圧倒していた。
僕が勝ったのはそれこそ運がよかったとしか言いようがない。
「僕の拙い推理よりもエンドウだろ。どうして僕の密室トリックをあんなにあっさり見破れたんだ」
僕は高ぶった感情のままエンドウへと詰問する。
僕は推理よりもトリックに自信を持っていた。
僕が考えたその渾身のトリックがエンドウには簡単に見破られてしまった。
この事実は僕の推理作家としてのプライドを打ち砕いていた。
「ああ。夕食の時にお吸い物が出ていただろ。たまたま俺の奴の蓋が開かなくなっていてな。確かあの蓋が開かなくなる現象も気圧差が原因だろ。それで密室の状況を聞いた時にピンと来たんだよ。俺の方こそ運がよかった」
「なるほど、そういうわけか」
探偵が日常の些細なきっかけから真実に気づくのはミステリーでは王道の展開だ。
そういう意味ではエンドウは持っている探偵だったということだろう。
僕らは互いに笑いあう。
「あぁ、悔しいな。正直ショップ大会の一回戦で負けるとは思っていなかったぜ。これでも俺、全国大会常連で烈火の探偵なんて呼ばれるプレイヤーなんだけどな」
「そうなのか。なんでそんな奴がショップ大会なんかに出てるんだよ」
「ああ。やっぱり真犯人オンラインの実力を磨くには実践が一番だからな。全国大会は化け物みたいな能力を持ったプレイヤーばかりなんだよ。その中で戦うためにも俺はもっと力をつけなければならないんだ。今度8月に全国大会があるんだが。そうだ、サイク! 俺と一緒に大会に出てみないか」
エンドウの誘い。僕はそれに思わずつんのめる。
「はっ!? なんだよいきなり」
「いきなりじゃないぜ。俺はこの大会に実力を磨くために出場したが同時に真犯人オンラインを共に戦う
エンドウの言葉に僕は思案する。
正直今回の戦いで得るものは多かった。
これほど熱く興奮する経験は子供の頃見た秀作さんの試合以来だろう。
今回の
「申し出はありがたいが僕の本分は作家だ。そっちがうまくいっていないのに二足のわらじは履けない」
「うーん、残念だな。なら本業がうまくいったら一緒にやろうぜ」
「それならいいだろう。その時は一緒に戦おう」
「はは。確かに約束したからな! 忘れんじゃねえぞ」
僕はエンドウと固く握手をする。
今回の経験で僕は今まで僕を覆っていた殻を破れたような、そんな気がするんだ。
きっと今度書く小説は今までにないものになるはずだ。
作家として成功したらその時はエンドウと一緒にゲームをプレイするのもいいかもしれない。
それは何よりも素晴らしいことだろう。
その後、エンドウと別れた僕はそのままの勢いで大会を勝ち進んだ。
順調に決勝戦に進出し、遂に優勝を果たした。
正直エンドウ以上の敵は見当たらなかったため、実質一回戦が決勝戦みたいなものだったわけだ。
賞金10万円を手にした僕は帰路につく。
うん。この気分の高揚。今ならきっといい小説が書けるはずだ。
僕はとても晴れやかな気分だった。
*
その後、小説を書き上げた僕は出版にこぎつけた。
販売部数がよければシリーズ化の予定である。
前評判では可能性は十分あるとのことだ。
部屋に寝転がる。
原稿料が振り込まれたため部屋の中は電気が煌々と灯り明るい。
小説の出来が良くなったのは紛れもなく真犯人オンラインでインスピレーションを受けた影響だろう。
エンドウとの
もう会うことは無いだろうがまた会うことがあったら
そんな風に考えていた時、そいつは僕の前に現れた。
――ピーンポーン
おっ。編集部の人か?
いや編集担当にはすでに原稿を渡している。今は予定も抱えていないし、緊急の幼児なら電話で連絡してくるだろう。
そうなるとセールスだろうか。
こんなボロアパートまで来て何かを売り込むなんてよほど暇なやつなのだろう。
僕は重い腰を上げ、玄関へと向かう。
「サイク! 迎えに来たぜ」
「なっ。お前どうしてここが」
玄関の前に立っていたのはエンドウだった。
あの日と同じ学ランに赤い髪。白いハチマキを締めた特徴的な姿。
間違えるわけがない。
「どうしてって、シガミなんて苗字は珍しいだろ。そしてあんたはゲーム会場にサンダルで来た。帰っていくのは駅とは反対方向だったし駐車場も素通りした。そこから俺はサイクの住所をショップの近所に辺りをつけ」
「いやいや、そんな推理過程はいいんだよ。なんでお前は僕の所に来たんだ」
いや、僕の住所が割れているんだ。どうでもいいということはないんだが。
「約束しただろ。小説を書き上げたら俺と
「確かに原稿は上がったが、なんでそれをお前が知ってるんだよ」
「えっ。それこそ今さらだな。エンドウ出版、サイクが持ち込んだのは俺の父が代表を務める出版社だ。コネを使って聞いたんだよ」
なっ。こいつ出版社社長のボンボンだったのかよ。見えねえ。
……ということは僕の小説が通ったのはこいつが手をまわしたから?
「そんな目で見るなよ。安心しなサイクの小説が企画会議を通ったのはあんたの実力だぜ。俺は声を掛けちゃいねえよ」
「……別に口添えしてくれたのならそれでもよかったんだがな」
別に今更口添えを受けたところで反論するほど僕は若くない。
ただ、エンドウの返答に少しだけホッとする自分を自覚する。
「それで、返事はどうだ! 一度約束しただろ。また俺と一緒に
エンドウの言葉に僕は言葉を詰まらせる。
エンドウが口添えをしていないというのを信じるのならやはり僕の小説が会議を通ったのは真犯人オンラインでのバトルの影響だろう。
ひりひりとした緊迫感、目まぐるしい展開に、自慢のトリックが崩される絶望感。
そして相手のトリックをぶち破る快感。どれも忘れられない。
「わかった。また前みたいにもんであげようじゃないか」
「おっ!? ということは」
「ああ。受けるさ、エンドウの誘い」
僕の返事にエンドウは満面の笑みを浮かべた。
「男に二言は無いな」
「別にこんなことで嘘をついても仕方ないでしょう」
「よし。じゃあよろしく頼むぜ
エンドウの言葉に僕ははあいまいな笑みを返す。
しばらくは予定もない。
次の小説のアイデアを練るためにも真犯人オンラインをプレイするのはきっと僕にとっていい影響となるはずだ。
こうして濁流のごとき勢いで過ぎていった僕の初めての
エンドウという新たな仲間に誘われた僕は真犯人オンラインという新たな戦いの舞台に踏み出すことになった。
僕のトリックがどこまで通用するか。
出場するからには優勝を目指そう。
僕の新たな戦いが始まった。
~~~~~
作者の滝杉こげおです。
真犯人オンラインをここまでお読みいただきありがとうございます。
この話にて第一章は完結となります。
第二章以降は章の最後まで書け次第、順次公開していく予定です。
新感覚対戦型ミステリー、読み味はどうだったでしょうか。
構想から一年。
ゲームルールに迷走したり、縦軸が全然まとまらなかったりでようやく形になったのが本作です。
準備期間が長かっただけにやりたい展開はいくつもありますので、次章もなるべく早く皆様へ公開できるように頑張ります。
面白かったという方はぜひ、感想、応援、レビューをいただけたら作者が喜びます。
大事なことなのでもう一度言うとこの作品に感想、応援、レビューをいただけたら作者が喜びます。重要です!
もちろん面白くなかったという感想も(オブラートにぐるぐる巻きに包んで)お送りくださいね!
それではまた次章でお会いしましょう! こげ~
【次章予告】
『ミステリーは最もフェアなエンターテイメントである!』
『さあ、舞台は整った。真犯人オンライン地方予選大会関東ブロックの開幕だ!』
「「「「「 うおおおおおおおおおお!!! 」」」」」
場内に響くアナウンスの熱気が静寂に包まれていた朝方のドームを覆う。
「井原秀作なんてただのくず男よ。あんたも秀作に心酔する馬鹿ってわけ?」
「我らは理を追求する修験僧、チーム『
「肉体を鍛え、頭脳を磨き、真理を求める者なり」
「「いざ尋常に勝負!」」
僧服を纏うマッチョ二人組。
「僕たちは負けるわけにはいかない」
「けっ。こんなところで気おされてたまるかよ。勝つのは俺たち『デッドエンド』だ」
唯一の連絡路であるつり橋が落とされ、陸の孤島と化した
めざせ! 一か月以内の連載再開ッ!
※予告されたエピソードおよび公開時期は公開時に作者の都合やモチベーションの低下により予告なく変更される場合があります。
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