第十話 VS 烈火の探偵 捜査編⑤
●8:26 玄関
「これはなんでしょう」
山荘の中に戻ると、家族旅行客の父親が玄関の靴箱の中を覗き込んでいた。
「どうかされましたか」
「はい。玄関の掃除道具入れの中におかしなものが突っ込まれていまして」
父親はそういうと、その『おかしなもの』に手を伸ばす。
父親の手によって僕の前に差し出されたのは折りたたまれたビニールシートだった。
「僕がここに来た時にはなかったと思うんですけど」
「それは確かに怪しいですね」
僕は適当に相槌を打ちながらビニールシートを広げる。
そこには赤い血痕が広がっていた。
「こ、これって。うぎゃああああ」
「あなた、大丈夫!?」
ビニールシートについていたのは血の跡だった。それも結構な量がついている。
「ロッカーの中も赤まみれだよ」
子供がロッカーを覗き込みながらつぶやく。
確認すると確かにロッカーの床面には血がついていた。
それも結構な量だ。
ビニールシートはおそらくエンドウが死体を運ぶ際に使用したものだろう。
ロッカーの血はビニールシートに付着していたものが移ったものか?
いや、それにしては血液の量が多い。
もしかしたらエンドウは何らかの理由で死体をロッカーの中に一度入れたのかもしれない。
その後103号室の中も探索してみるが犯行に関する決定的な証拠は得られなかった。
【キーアイテム】探偵の嗅覚は推理に必要な未発見の証拠を一つ発見できるアイテムだ。
しかし、探偵の嗅覚を使っても新たな証拠は見つからなかった。
つまりこの時点で推理に必要な証拠は出そろっているということだ。
いったいどうやってエンドウは自身の足跡を残さず犯行に及んだのだろうか。
まず考えられるのは足跡の上から雪をかぶせる方法だろう。
しかし、踏み固められた雪の上に雪をかぶせても足跡はうまく消えない。
同様に板などを敷いて圧を分散させても跡が残る。
専用の道具があるのかもしれないがそれらしきものは見つかっていない。
死体発見現場から山荘までは10メートルの距離がある。
足場から飛び移ったり、死体を投げたりするにしても距離がありすぎる。
いくらゲーム世界だとしてもこの世界は現実の物理法則に準拠している。
やはり道具を使わずに行うことは不可能だ。
後考えられるのはナイフ自体を飛ばしてターゲットを殺す方法だろうか。
ショップにはナイフを打ち出す機構を備えたボウガンがあった。
ターゲットを殺害現場まで呼び出す必要はあるがこの方法であればターゲットに近寄ることなく刺殺が可能だ。
だが、この場合、背中に残された傷が二か所であることが矛盾する。
一度ナイフを抜いた後、もう一度背中にナイフを刺す必要があり、結局は近づく必要がある。
仮にナイフに紐をつけておき後で回収したのだとしてもナイフが地面に擦ってしまう。
ボウガンも見つかっていないしこの方法も違うだろう。
あと考えられるのは足跡の合成といったところか。
例えば行きは大股で二歩分を一歩で歩き、帰りは自身の残した足跡と被らないように二歩分を一歩で歩けば普通に歩いた場合の片道分の足跡で往復が可能だ。
しかしこの場合足跡に残された靴を被害者が履いている点が問題となる。
エンドウが行きに被害者の靴を履き死体発見現場に向かったとしても帰りはその場に靴を残していかなければならないのだ。
被害者と同じ靴裏の靴を用意すれば可能だが、今のところ靴は発見されていない。
探偵の嗅覚を使っている以上未発見の証拠がある前提で推理を進めることはできない。
たとえ爆弾で証拠が隠滅されていても探偵の嗅覚は反応するはずである。
いったいエンドウはどうやって足跡を残さずにコートの男の死体を運んだのか。
僕が思案に暮れている間にも時間は過ぎていく。
そして。
●8:42 食堂
集められた容疑者。目の前の人物が「さて」と言うと、場の皆に緊張が走る。
「お集まりいただきありがとうございます。皆さんに集まっていただいた理由はほかでもありません。犯人が分かったからです」
皆の前に立ちそう言い放ったのは、男性登山家だ。
彼がエンドウの正体だったのか。
僕はまだエンドウのトリックを看破できないでいる。
絶体絶命のピンチを前に僕はただ、エンドウの推理が外れることを祈ることしかできないでいる。
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皆さま、こんばんは!
作者の滝杉こげおです。ここまで真犯人オンラインをお読みいただきありがとうございます。
次回よりいよいよ解決編が始まります。
本文中でも触れているようにエンドウの犯行を解くための証拠はすでに出そろっています。
果たしてエンドウはどんなトリックを使ったのか。ぜひ推理してみてくださいね。
そしてこのまま主人公サイクは敗れてしまうのか。
ぜひ、次回更新をお楽しみに!
※追記
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