第六話 VS 烈火の探偵 捜査編①

●07:00 食堂


 画面に色が灯る。

 現在位置は食堂。

 ここには僕のアバターを含め、八人が集まっていた。


 二度目の犯行時刻でトリックを完成させた僕は、無事犯行を完了させることができた。

 今から捜査パートが始まるところを見ると、どうやらエンドウも犯行を完了させたらしい。


 この場にいないのは僕のターゲットだった山荘の管理人とロングコートを羽織っていた男だけだ。

 どうやらあの男がエンドウのターゲットだったらしい。


 朝食の時間のため食堂に集まった僕らだが管理人がいないため食卓には食事が出ていない。

 食堂からは状況を不審に思う声が上がる。


「管理人さんはどこにいったんですかねえ」


「コートの男の人もいないみたいです」


 女子学生、男子学生が疑問を述べる。


「これはミステリーの予感がします」


「出たよ、カズ君の推理オタク。雪崩が起きたこの状況でそういうのは笑えないからやめてよね」


 カズ君と呼ばれた男性登山客はミステリー好きのようで喜色の交じった声を上げ、女性登山客にたしなめられている。


「もしかして何かトラブルが起きているのかも」


「あなた、心配ね」


「じゃあ、僕が探してくるよ!」


 家族旅行者が声を上げる。

 まずは相手のターゲットの死体を確認しないことには推理も何もないからな。

 相手のターゲットの死体は早めに発見しておきたい。

 よし、ここは流れに乗り、探索に行くように皆の意見を持っていこう。

 

「なら、このあたりの地理に詳しい私が管理人さんとロングコートのお客様を探しに行きましょう。確かに何かトラブルが起きているのかもしれませんね」


「なら僕も行きますよ! 事件の臭いがします!」


「カズ君が行くならじゃあ、私も」


「僕も!」


 自然な流れ(?)で私が席を立つと男性登山客、女性登山客、家族旅行者の中学生も同行を申し出る。

 当然子供だけで探索に行かせるわけにもいかず中学生の両親もついてくることとなる。

 男女の学生はこの場に残るようだ。

 管理人がいるのは温泉施設だがわざわざ教える必要はない。

 コートの男がいるとしたら、客室だろうか?


 私は皆に客室に行く旨を告げる。どうやら家族旅行者三人も一緒に来るらしい。

 男女の登山客は管理人室を見に行くようだ。

 登山客が管理人を探しに行くのはいかにも怪しい。

 どちらかがエンドウのアバターなのだろうか。




「失礼します」


 コートの男性が泊まっていた103号室の扉を叩く。

 当然中から返事はない。


 ちなみに宿泊部屋は101~105号室までありすべての部屋が埋まっている。

 101が男子学生と女子学生の高校生ペア。

 102が眼鏡の男と長身の女の登山客ペア。

 103がロングコートを羽織った大柄な男、おそらくエンドウのターゲット。

 104が線の細い男、小柄な女性、中学生の三人組の家族旅行者。

 105が僕の自室、アバターである機械技師の女性の部屋だ。

 うん。高校生の男女が同じ部屋で宿泊しているとか、頭どうかしているんじゃないだろうか。爆ぜろ!

 

 ……今回用があるのは103号室だ。

 僕は中学生とそれを心配してついてきたのだろう両親の三人を連れている。

 一人で行動すれば単独で第一発見者となってしまう。

 それは避けるべきだ。


 一応エンドウの犯行時間中は僕にアリバイが生成されているが、一人で死体を発見すれば部屋に入った瞬間に被害者を殺害したのではないかという『瞬間殺人』の可能性が残ってしまう。

 単独行動をとればあらぬ疑いを掛けられる可能性があるのだ。

 多少手間だがこのゲームにおいて捜査パートでの複数人での行動は自衛のために基本的な行動となる。


 しばらく待っているがやはり103号室の中からは応答がない。

 ドアノブに触れると鍵はかかっていないようだ。

 僕はそのままドアノブをひねり部屋の中へと侵入する。




「なっ、なんですか。これは」


 家族旅行者の父親が声を上げる。僕たちが踏み入った室内はまるで獣が暴れまわったかのように荒れ果てていた。

 

 エンドウが刃物を振り回したのだろう、壁やベッドには切り裂かれた跡が見える。

 床の中央部分には血だまりができていた。

 机や椅子は倒され、地面に横倒しとなっている。


 部屋の荒れ具合を見るに、エンドウは犯行を行うのに相当苦労して格闘戦を行った様子だ。

 ターゲットとなった男性の背格好を考慮すると取っ組み合いにでもなったのかもしれない。


 この様子ではエンドウが返り血もべったりと浴びているはずで、探せばどこかから証拠が出てくるに違いない。

 僕は笑みを浮かべるが、当然それはアバターには反映されない。

 ここにいる家族旅行者がエンドウで無いという保証はないのだ。

 声色には注意が必要だ。

 僕はなるべくトーンを落として声を出す。


「ここで何かがあったのは間違いありません。お客様の安否が心配です。早くロングコートのお客様を捜しましょう」


「で、でもこれ、これだけの血が流れてるんです。これはその人の血ですよね? その人、もう死んでるんじゃないですか!? それにこの状況を作り出した人がいるんですよね!? 捜索なんて危ないんじゃ!?」


 父親がおびえた声を上げる。母親は子供の目を隠し現場を見せないように抱き寄せている。


 うーん。この展開は面倒だ。彼らをこの場に置いて行ってもいいが単独行動は避けたい。

 とはいえターゲットの遺体を見つけないことには推理も何もあったもんじゃないからな。


「わかりました。でしたらあなた方は食堂で待機していてください。私はお客様を探しに行きます。仮にお客様が生きているのだとすればすぐに助けに行かなければ」


 とりあえず食堂に行き学生ペアか、すでに捜索に出ている登山客ペアと合流し、捜査にあたろう。

 まずは遺体の探索を優先すべきだ。


 僕が考えをまとめたその時。


「きゃあああああああああああああああああああ!」


 山荘中に響く女性の叫び声が聞こえた。

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