第三話 VS 烈火の探偵 犯行編③


『ショップで交換できるアイテムの説明です』


 ショップウィンドウを見ているとそれを遮るようにアナウンスが表示される。

 いよいよ本格的に犯行計画を練る段階だ。

 説明を読む間も緊張が高まる。


『【凶器】はターゲット殺害に使用するアイテムです』


『【凶器】はそれぞれのゴールに対応しており、例えば刺殺が設定されている果物ナイフでターゲットを殺害すれば刺殺が成立します』


『また【凶器】は組み合わせて使うことも可能です。射出機能を備えたボウガンとナイフを組み合わせることによりボウガンで打ち出したナイフでターゲットを刺すなどの使い方ができます』


『【凶器】はプレイヤーのアバター初期配置位置である自室にゲーム開始時に生成されます。ワイヤートラップなど、設置が必要な凶器の場合はアバターを操作しプレイヤーが設置を行う必要があります』


 アナウンスを聞き僕はリストを確認する。

 リストにはアナウンスにあったナイフから、包丁やゴルフクラブ、さらには拳銃や毒薬、爆弾なども載っていた。



~~~~~


名称:ボウガン 必要HP:120

効果:殺害成功時射殺に加え、装填した凶器に対応した死因が成立

解説:射出機構を備えた遠距離武器。飛距離は装填した凶器により変動。

   特定の凶器を設定することで装填が可能となる。


~~~~~


~~~~~


名称:遠隔操作爆弾 必要HP:400

効果:殺害成功時爆殺が成立 建物に対し特攻

解説:付属のリモコンで起爆可能な爆弾。

   激しい爆発音と共に周囲三メートルにある物体を破壊する。


~~~~~



 僕は気になったボウガンと爆弾の説明を見る。

 交換に必要なHPはリストの下に行くほど高くなり、リストの中では遠隔操作爆弾の400HPが最高値のようだ。


 というか400HPって高すぎるだろ。

 初期に配布されるのが500HPであるため、例えば爆弾を選択すればほとんどポイントを使い切ってしまうところだ。

 リストに表示されるのはよく選択される凶器だというが、誰が交換するのか。

 まあゴールに爆殺が表示されることもあるからということだろうか。


 殺人に必要となるのは凶器だけではない。

 ここでポイントを使い切ってしまうのは愚策だろう。

 また、あまりに威力が大きい凶器だとターゲット以外の人間を巻き添えにしてしまう可能性がある。

 ターゲット以外の人間を殺してしまった場合、その時点で敗北となるため凶器の選択には十分配慮が必要となるはずだ。


 さて、何を選択するか。

 今回のゴールは刺殺か扼殺。

 僕が選択しようとしているのは刺殺である。

 考えているトリックには特に凶器が何であるかは関係しないため単純に殺害のしやすさで考えるのがよいという判断だ。


 リストは指定した条件でソート可能であるようだ。

 対応するゴールが刺殺の凶器でソートすると刃物類がリストに表示される。

 まあ、ここは無難に10HPで交換可能な果物ナイフにするか。



~~~~~


名称:果物ナイフ 必要HP:10

効果:殺害成功時刺殺が成立

解説:刃渡り20㎝の一般的なナイフ。カバーが付いており安全に持ち運ぶことができる。


~~~~~



 僕がナイフを選択するとウィンドウ上部に表示された交換済みリストに果物ナイフの名前が載る。

 懐に隠して携帯可能であるし、殺傷能力も十分だ。

 凶器は複数交換することができるが下手に所持していても処分に困る。

 ナイフだけで問題ないだろう。


『【役職】はアバターに肩書を付与することができるアイテムです』


『肩書はそれぞれ特殊な効果を持ち、特定の【キーアイテム】の入手に必要であったり、プレイヤーやNPCの行動を変化させたりするなどゲーム全般に影響を与えます』


『肩書はアバター一体に付き一つしか付与することができず、ステージ上のアバターは探偵を除きお互いに同一の肩書を持つことはできません ※1VS1バトルでは探偵の肩書は使用できません』


 僕はウィンドウを切り替え【役職】が載ったショップ画面を開く。

 表示されたリストには『休職中の警察官』、『監察医』、『タクシードライバー』、『漁師』といった職業や、『双子』、『第一発見者』といったとても職業と呼べないもの、さらには『推理オタク』に『高所恐怖症』など効果がよくわからないものまでさまざまな種類が並んでいた。

 中には0HPで交換可能な『無職』というものもあった。

 ゲーム開始時肩書が無いアバターには必ず一つ肩書が設定されるため、無職は肩書が必要ない場合に変な肩書がつかないように選択しておくものらしい。


 僕はリストの中から目に入った『双子』の項目を注視してみる。

 


~~~~~


名称:双子 必要HP:250

効果:NPC一人の外見が自身と同じものに変わる。

   ※犯行時や捜査時に協力を得られるわけではない


~~~~~



 なるほど。自身と同じ外見のNPCを生み出すことができる肩書を得られるというわけか。

 双子の入れ替わりトリックは常識レベルで有名なトリックだ。

 例えばターゲットの容姿を自分と同じものにすることで入れ替わりトリックが使えるだろう。


 双子の説明を見て気になったことをヘルプで確認する。

 どうやらこのゲームではアイテムを選択してもNPCを味方にすることはできないようだ。

 つまり共犯の可能性は考えなくてもいいらしい。

 

 双子の詳細が表示されたウィンドウを閉じる。

 僕が望んでいるのはこの肩書ではない。

 目当てのものを探すとすぐに見つかる。



~~~~~


 名称:機械技師 必要HP:150

 効果:機械知識を有する。機械を操作、修理、分解することができる。

    機械の修理、分解には専用の【キーアイテム】が必要である。


~~~~~



 僕が選択したのは機械技師。

 選択理由は機械を扱えるというのはカッコイイ、というだけではない。

 もちろん殺人トリックに必要だからである。


 機械の操作にはそれに対応する【キーアイテム】が必要なようだ。

 僕はウィンドウを切り替え【キーアイテム】のリストを表示する。




『【キーアイテム】は【凶器】を除く犯行や捜査に役立つサポートアイテム全般を指します』


『【キーアイテム】は様々な効果を発揮しますが、特定の条件を満たさないと交換できないものもあります』


『【キーアイテム】は基本的に【凶器】同様、ゲーム開始時にプレイヤーのアバター初期配置位置である自室にゲーム開始時に生成されますが、一部は別の場所に生成されるものがあります』


 開いたリストには幅広い種類のアイテムが表示されていた。



~~~~~


 名称:工具セット 必要HP:50

 効果:機械の操作、修理、分解に使用する。

    機械の操作、修理、分解には機械知識を有する肩書が必要。


~~~~~



 僕は迷わず工具セットを選択する。


 残るHPは290。

 余らせても仕方がない。

 僕はリストの中から有用そうなアイテムを探す。



~~~~~


 名称:懐中電灯 必要HP:30

 効果:暗所で視界を確保する。使用した際にはNPCから目撃される可能性がある。


~~~~~



 今回は夜間の犯行となる。

 ゲーム内でも灯りの無い場所では当然視界が制限される。

 使用に伴いNPCに発見され犯行時刻を特定されるリスクはあるが、持っておいた方がよいだろう。



~~~~~


 名称:人体の知識 必要HP:50

 効果:ターゲットの殺害時に使用可能。人体の急所を理解する。

    人体の急所は攻撃することで確実にターゲットを殺害可能。


~~~~~



 刃物で人を殺すというのは意外と難しいらしい。

 考えてみれば人体は硬い骨で構成されているのだ。

 ターゲット殺害に失敗しないよう、人体の知識も交換しておく。



~~~~~


 名称:リュックサック 必要HP:10

 効果:背負いカバン。容量まで荷物を収納できる。


~~~~~



 現場で物を落としていくなど犯人としてはあるまじき失態だ。

 犯行時、物を置き忘れることが無いようにリュックサックを交換しておく。

 両手を開けて作業できる利点は大きいはずだ。



~~~~~


 名称:探偵の嗅覚 必要HP:150

 効果:捜査パートで使用可能。

    未発見の犯行の痕跡を一つ発見する。使用制限一回。


~~~~~


~~~~~


 名称:発言力アップ 必要HP:50

 効果:捜査パートで使用可能。

    発言の説得力が増す。NPCとの会話中自身の意見が通りやすくなる。


~~~~~



 【キーアイテム】の中には捜査パートで使用できるアイテムも含まれている。

 探偵の嗅覚は、相手が犯行で残した痕跡を発見できるアイテムだ。

 痕跡の重要度は選べないためランダム性があるが、捜査が行き詰った時の有用なアイテムとして攻略サイトにも載っている。


 発言力アップは事情聴取における補助アイテムだ。

 NPC相手に話を聞く際に若干、話を聞きだしやすくなるらしい……コミュ障必須アイテムだ!

 当然相手プレイヤー相手には効果を発揮しないが、露骨に非協力的な態度をとられれば疑う根拠となるだろう。


 これできっかり500HPを使い切った。

 ほかにも欲しいアイテムはあるが仕方ない。

 このアイテム選択が僕の取りうるベストのものだろう。


『アイテムの交換を終えたら、最後はいよいよ犯行時刻の設定です』


『犯行時刻は指定された時間帯の中から1時間分を選択します。計1時間以内であれば5分単位でいくつでも分けて設定することができます』


『犯行時刻は相手プレイヤーと被らない位置に調整されます。決定後、犯行時刻の変更はできませんのでご注意ください』


 アナウンスにより犯行時刻についての説明がなされる。

 今回犯行時刻を設定できる時間帯は2か所。18:00~20:00、22:00~24:00。

 相手プレイヤーには僕と被らない時間帯が表示される。つまり相手の犯行時刻は、20:00~22:00、翌00:00~02:00の間だ。


 うーん。犯行時刻の最後を抑えられないというのは痛いな。

 犯行時刻の最後を抑えていればそのまま捜査パートに入ることができるという利点があるからだ。


 まあ、こればかりは運だから取られてしまっては仕方がない。

 今できることで最善を尽くすべきだ。


 ウィンドウを操作してターゲットの行動タイムテーブルを表示する。

 ターゲットはおおむね管理人室に居り、22:00に一度温泉へ移動する。

 温泉の利用可能時間は21:00だが、ターゲットは山荘の管理人であるため温泉の時間外利用が可能なのだ。


 僕が狙うのはターゲットが確実に一人となる温泉にいる時だ。

 僕は22:00から40分、23:40から20分の二か所を犯行時刻として設定した。


 なぜ二か所かって? まあ、それは後々の犯行を見ればわかることだろう。




『これにて犯行の準備は終了です。お疲れさまでした』


『ここからは犯行パート、実際に犯行に及ぶ場面になります。最初はキャラクター全員での顔合わせの場面からです。 ※対戦モードでは、顔合わせをスキップすることはできません』


『操作説明もこの説明を最後に終了となります。ここまでお付き合いありがとうございました』


『それではあなた様の素晴らしい犯行を期待しています』

 

 挨拶を残してナビゲーションウィンドウが消える。

 僕は一つ、息を吸い込む。


 さあ、いよいよ犯行開始だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る