第二話 VS 烈火の探偵 犯行編②
*
真犯人オンラインショップ大会一回戦。
執筆を続けるのに必要な資金10万円を手にするために臨んだこの大会で、僕の対戦相手は赤髪の青年、エンドウであった。
特徴的な赤い髪を持つ熱血を体現したような青年。
彼の持つ熱量は、彼が確かな強敵であることを僕に知らせる。
だが相手は関係ない。
僕のトリックが解かれるはずがないのだから。
こんな初戦でつまずくわけにはいかない。
「あんた強そうだな。いい
楽し気に笑うエンドウ。
だがそうしていられるのも今の内だ。
勝つのは僕だ。
僕はエンドウに決意の目を返し、ヘッドモニターを装着した。
~~~~~
ショップ大会第一回戦
『真犯人オンライン初心者』
VS
『烈火の探偵』
Start!!
~~~~~
*
真犯人オンライン専用のプレイデバイスであるヘッドモニターを装着した僕の視界には黒一色の空間が広がる。
ヘッドモニターはフルフェイス型のヘルメットに酷似した形状だ。
内部に埋め込まれた機器がプレイヤーの脳波を読み取ることで、電脳空間に生成されたアバターを操作することができる。
電脳空間は目の前のモニター画面に映像で表示され、リアルタイムで状況を確認可能だ。
現在表示されているのは一辺が5mほどの正方形で構成された立方体型の空間。
一面すべて黒色でおおわれており、目を凝らさなければただモニターが暗転しているようにしか見えない。
僕が顔を左右に振るとそれに合わせてモニター画面に表示された視界が移動する。
どうやら機器は正常に作動しているようだ。
『真犯人オンラインへようこそ!』
黒一色だった視界の中に青白い光を放つ長方形の板、ウィンドウが表示される。
『このメッセージはゲームの初回起動時に表示されるものです。ゲームのプレイにあたり操作説明は必要ですか?』
ウィンドウに表示されたメッセージが僕の読むタイミングに合わせ切り替わっていく。
初めてプレイするゲーム。操作ガイドは必須だろう。
案内を申し出るメッセージに対し僕は肯定を返す。
ウィンドウが消え、目の前に白い人形が生成される。
この人形がゲーム内で使用する僕のアバターだということは知っている。
動作確認に僕が右腕を動かすように脳波を送ると指示通りに動いてくれた。
『ゲームの説明に入る前にゲーム内で使用するアバターの設定を行います』
『あなたはアバターを通してゲーム内で行動することができます』
『アバターの外見はあなたから見た場合だけでなく相手プレイヤーが見た場合にも適応されます。プレイヤーと特定されにくい外見を設定することをおすすめします』
『また、アバターの設定を変更することで身長や体重を大きく変えたり、人間以外の猫や犬といった別の種の姿をとることも可能です。ただしあまりにも現実の肉体と乖離している場合、脳波を介した操作が行いづらいことがあります。なるべく現実の肉体に近いアバターを使用することをおすすめします』
アバターはまだ設定を終えていないため表面のつるんとした、のっぺら坊の状態だ。
アバターには性別や体格といった情報以外にも種族など細かく設定できるらしい。
動物にも設定できる点、『意外な犯人像』には事欠かないというわけか。
とはいえ、アバターに動物を設定してしまうと口で咥える方法でしか道具を使用できなくなるらしい。
四足歩行となる以上、目線の高さも操作の困難さも考慮する必要がある。
せっかくなら動物のアバターに興味はあるが今回はやめておこう。
僕は素直にアバターの種族を人間に設定し、対戦相手からばれない程度に容姿の設定をいじった。
『アバターの設定を完了しました』
『続いて犯行計画を立てましょう。次に表示されるウィンドウには
『各項目は注視することでより詳細な情報を確認可能です』
『条件を満たした素晴らしい犯行計画を立ててみましょう』
さあ、いよいよ犯行計画の立案だ。
推理小説作家である僕の本領発揮といこうか。
アナウンスに引き続き、計画ウィンドウが表示される。
~~~~~
~~~~~
ステージは殺人現場となる舞台。
ターゲットは今回の殺人の被害者。
ゴールは被害者の殺害方法を示しているようだ。
各項目はそれぞれ注視することで詳細が確認可能らしい。
ステージを注視すると舞台周囲の見取り図とともにステージ詳細が記された別ウィンドウが展開する。
ステージは雪山の中腹に建てられた山荘。
雪崩により外界との唯一の連絡通路である登山道が埋まってしまい復旧するまで外界との出入りを遮断されたという設定らしい。
建物は宿泊施設とそれに併設された温泉。(見取り図参照)
ステージ自体は1km×1kmの範囲があるそうでステージの端に行くと見えない壁がありそれ以降はアバターが侵入できないようになっている。
ゲーム開始時にはプレイヤー、ターゲットを含め10人の人間が生成されるそうだ。
雪に閉ざされた山荘。なるほどなかなかに趣がある、ミステリー定番の舞台である。
ざっと考えただけでもいくつか定番のトリックが思い浮かぶ。
いったいどんなトリックを仕掛けるべきか。
僕は思考を巡らせながら情報を読み進める。
ターゲットは山荘の管理人だ。
ウィンドウにはターゲットとなる人間の行動タイムテーブルが表示されている。
犯行時刻は18:00~翌02:00までの8時間。
ターゲットは犯行時刻中、おおむね管理人室に居り、22:00に一度入浴のため温泉へ移動すると書かれていた。
犯行の基本は殺害現場を目撃されないことだ。
狙うとしたらターゲットが一人となる温泉に行ったときだろうか。
温泉の利用時間は21:00までだ。
ターゲットは管理人であるため普段は時間外に温泉を利用しているという。
つまり22:00であれば管理人以外、温泉に人はいなくなる。
温泉の中では被害者が裸になる点も抵抗される危険が減り都合がいい。
ちなみにターゲット以外の人間を殺した場合はその時点でゲームに敗北となるそうだ。
対戦相手のアバターに対してもルールが適応されるそうなので、ミステリーで稀にある探偵を殺して真相を闇に葬るという手段はとれそうにない。
ゴールは『刺殺』か、『扼殺』と記載されている。
刺殺は刃物による殺害で、刃傷が原因となり死亡することだ。
扼殺は直接手で首を絞め気道を塞ぎ殺すこと。
紐など凶器を用いた場合は絞殺となり扼殺の条件は満たさないという。
ターゲットの殺害に成功しても殺害方法が刺殺か扼殺にあたらなければ犯行失敗となり、その時点でゲームに敗北する。
仮に死後、刃物を突き刺したり、首を絞めても刺殺や扼殺は適応されない。
純粋に死亡原因となった殺害手段で条件を満たす必要があるようだ。
扼殺は直接ターゲットと向き合う必要があり難易度が高いな。
薬で眠らせるなど気絶させてしまえばいいのだろうが、それならば奇をてらわず素直に刺殺を選ぶべきだろう。
とりあえずどうやって殺すかは凶器を見てから考えよう。
一通り情報の確認を終えた僕はウィンドウを閉じる。
『さあ、素晴らしい殺人トリックは思いつきましたか? 今からは犯行計画を実行に移すための準備の段階です』
『ゲーム開始時、プレイヤーには500HPが与えられます』
『HPとは
『ショップについての説明です』
『ショップではHPと交換にアイテムを入手することができます』
『アイテムには【凶器】、【役職】、【キーアイテム】の三種類がありそれぞれで役割が異なります』
『各アイテムは交換に必要なHPとともにリストに表示されていますが、リストに表示されているものは使用頻度の高いアイテムのみです。リストに表示がないアイテムを使用したい場合はウィンドウ左上の検索機能をご利用ください』
アナウンスに続いてショップウィンドウがポップアウトする。
ウィンドウの上部には【凶器】と記されておりその下には凶器のリストが表示されている。
ウィンドウは横にスライドできるようでスライドさせることで【役職】、【キーアイテム】のリストに切り替えることができるのだろう。
僕は頭の中でトリックを組み立てながら犯行に必要なアイテムの選定を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます