ショップ大会編
第一話 VS 烈火の探偵 犯行編①
「ははっ。あんた強そうだな」
一回戦の対戦相手である青年は僕と相対し、さわやかに笑う。
燃える炎のように赤い逆立った髪を持つ小柄な青年である。
彼は僕に向かい手を差し伸べてきた。
「
エンドウと名乗った彼の額に巻かれているのは白いハチマキだ。
僕は差し出された手をしっかりと握り返す。
「
「ははっ。楽しい
互いに相手の手を強く握る。
くそ、やけになれなれしい奴。
こういう輩は僕の一番苦手なタイプだ。
僕は内心で舌打ちをする。
ここは真犯人オンラインのショップ大会会場。
ゲームショップ『
今の僕には金が要る。
そんな僕にとってこの大会は渡りに船であったのだ。
何としてでもこの大会を優勝し、10万円を手にするのだ。
僕は手にするヘッドモニターを被り、ゲームを起動させる。
「「犯行開始!!」」
僕が決意の言葉を口にしたのは対戦相手と同時だった。
僕の目の前に光が走る。
こうして僕とエンドウの推理合戦が始まった。
*
ショップ大会の一日前。
僕は自室にこもっていた。
薄暗い部屋。
灯る明かりは文章作成ソフトが立ち上がったパソコン画面のみである。
ライフラインの要である水道は利用料金の未払いのために先月から止まった。
執筆のために必要な電気料金も先々月から支払いが滞り、いつ止まるかもわからない状況だ。
僕はパソコンを見続け疲れた目を抑えながら、現実逃避気味に床へと寝転がる。
そう。僕は追い込まれていた。
高校を卒業してから売れないミステリー作家として5年半。
アルバイトや親からの仕送りで今まで食いつないできたがもう限界に来ていた。
2度ほど雑誌での連載は勝ち取ったがすでに打ち切られ、次なる原稿の執筆のためにアルバイトの時間も取れない。
切り崩す貯金もとうに尽きている。
生活保護に頼ろうにも、執筆のための資料や、小説の舞台となる孤島や館のジオラマ、パソコンやその周辺機器といった機材などの財産を処分しなければならないのだ。
そんなことをすればまともに執筆ができなくなる。
僕にとって作品が書けなくなることは死と同義、いやそれ以上だ。
当然そんなことできるわけがない。
顔を上げパソコンの画面を見る。
今書いている原稿。これが書きあがればきっと状況は改善するはずだ。
今まで温めてきた渾身のトリックを使った一作。
これで僕は、世間をあっと言わせて見せる。
『難しすぎる。もっと読者の楽しめる内容にするべきだ』
そんな言葉で僕の作品を否定してきた担当編集者だって、きっとこのトリックを見れば態度を変えるはずだ。
この作品が世に出ればきっと世間で評価される。
今の逆境を覆すことができるはずなのだ! ……だが。
現実問題として、今の僕には金がない。
明日の食事すらままならず、家賃も大家さんの恩情で2か月の間支払いを待ってもらっている状態だ。
いつ追い出されたところで文句も言えない状況なのである。
この小説さえ書きあげることができれば金を得ることができるはずだ。
それだけの価値がこの小説にはあるはずなんだ。
だが書き上げることができなければどうしようもない。
せめてあとひと月暮らせるだけの金があれば必ずこの状況を打開できるはずなのだ。
10万円。そう、10万円ぐらいあれば僕なら必ず……
そして目に入る。床に乱雑に置かれた広告の束、その中にあった一枚のチラシが。
『参加費無料! 優勝賞金10万円! 真犯人オンラインショップ大会開催!』
その広告を見た瞬間僕の直感が告げた。これは天啓だ、と。
僕はひったくるようにその広告をつかんだ。
内容はこうだ。
~~~~~
ゲームショップ『
平素よりお世話になっております。
この度、楽雲は店内の改装を行い来る8月1日に新装開店が決まりました。
つきましては新装開店に伴い、3つのキャンペーンの実施を計画しております。
キャンペーンその① 参加費無料! 優勝賞金10万円! 真犯人オンラインショップ大会開催!
世界ナンバーワンシェアの人気推理ゲーム『真犯人オンライン』のショップ大会の開催が決定しました。
参加費無料。定員は30名。優勝者には賞金10万円をご用意しています。
ぜひこの機会に当店をご利用ください。
※大会の詳細は広告の下部に記載
キャンペーンその② ……
~~~~~
真犯人オンライン、参加費無料、賞金10万円。
どれをとっても僕に優勝をしろと神様が告げているような内容だ。
あまりゲームをしない僕であるが真犯人オンラインは別だ。
なにせ、僕がミステリーを書くきっかけとなったのは、最高の探偵として名高い井原秀作さんの真犯人オンラインでの試合に魅せられたからなのだ。
実際にプレイしたことはないがルールは分かる。
不可能犯罪を構築し、より早く相手の殺人トリックを暴くことができれば勝利。
つまり、相手に真相が暴かれなければ負けることはないということだ。
まだ駆け出しとはいえ僕は雑誌で連載する推理小説作家なんだ。
考えだしてきたトリックは優に100を超える。
ショップ大会程度の規模で僕のトリックを解けるようなプレイヤーはいないだろう。
優勝すれば賞金10万円。今書いている小説を脱稿させるまでの生活費に十分な金額だ。
くふ、くふふふふ。
僕は高ぶる感情を自覚しつつ、一人ほくそ笑む。
向いてきた運を確信し、目に生気が宿る。
さあ、サクッと優勝してしまおうか。
そうと決まれば準備を急がねば。
僕は明日開催の大会に向け、準備を始めた。
~~~~~
第一章のステージの見取り図をtwitterにあげております。
↓↓↓↓↓
https://twitter.com/takisugikogeo6/status/1297478331374243840
是非見取り図を参考に推理を進めてください。
以上、ご確認の程よろしくお願いします。
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