第02話 変身(へんしん)

和川(のどかわ)がデバイスを掲げ、宣言する。


「変身!!」


『アセンション。』


変身が承認され、電子音声が鳴る。

和川はデバイスと共に眩い光に包まれる!


そして光の中から現れた彼女は、魔法少女に変身していた。

輝きが増したロングヘアーの髪、黒を基調として金や宝玉で装飾されたバトルドレスを身に纏い、ゴシック風のヘッドドレスを着けて、腰には一対の2丁拳銃を装備していた。


和川は2丁拳銃を取り出し、悪魔(デーモン)に向けてフルオートで撃ちまくった。


ドガガガガガガッ!


デーモンはそれをモロに受けて、全身から火花を散らし、よろめく!


<<グワアアアアア!!>>


弾を撃ちきった彼女は、一旦射撃を中止した。

そこで、デーモンはダメージはあるものの体勢をたてなおし、接近戦を仕掛けようと和川に向かってダッシュした!

彼女は既にデバイスを取り出し、その画面の中のアイコンを押して、プログラムを起動していた。


『バヨネット アクティブ。』


電子音声がアナウンスされ、彼女の2丁拳銃のそれぞれに、光と共に銃剣が装備された。

接近戦に対応する構えだ。


ガキン! ガキン! ガキン!


デーモンの爪による斬撃を、二刀流の銃剣でいなす和川。

隙をみて、少し飛び上がった彼女はデーモンを蹴り飛ばし、その反動を利用し後ろに宙返りで飛びながら距離をとった。

銃の弾を再装填するつもりだ。


<<グオオオオオ!!>>


デーモンは自分の攻撃が通用しない事に苛立ち、咆哮した。

そして体を反らし両手を天に掲げると、地面に魔法陣が浮かびあがった。

そこから召喚されたのは死者の肉体を利用したデーモンの傀儡、ゾンビだ。

しかも10数体いる。数で勝負するつもりのようだ。


和川は再びデバイスを手に取り、別のプログラムを起動した。


『ヘヴィマシンガン アクティブ。』


電子音声が鳴り、和川の手元には光と共に、人が持つにはかなり大きな重機関銃が現れた。

彼女はそれを右手で脇に抱え、左手で銃の横にあるグリップを握り、しっかりと構えた。


<<オオオオ……!>>


ゾンビ共がうめき声をあげ襲い掛かる。

だが重機関銃の斉射はそれらを容易になぎ倒した。


ズダダダダダダッ!!


銃声の轟音が鳴り響く。

ゾンビ達は四肢や体を八つ裂きにされ、辺りに肉片と血飛沫が飛び散る。


(ひえええ……! こんなの魔法少女じゃないよ……!? でも……)


加奈芽(かなめ)は目の前で広がるハチャメチャな光景に圧倒されていた。

そしてその視界には主に和川しか映ってなかった。

加奈芽は戦う和川の姿に最初は度肝を抜かれたが、次第に美しいなと思っていた。


だから、機関銃の銃撃を生き残った2体のゾンビが加奈芽に接近しているのに気付けなかった。


<<オオオオ……!>>


ゾンビがうめき声をあげてようやく加奈芽は自分の危機に気づいた。


「!? きゃー!」

「……? あなた!? まだいたんですか!?」


和川が加奈芽の危機を察知し、機関銃を投げ捨て、ダッシュした。


ズバッ! ズバッ!


2体のゾンビは2丁銃剣で斬り捨てられたが、和川は敵に背後を晒してしまっていた。


(しまった……!)


当然、デーモンがこれを好機と見て和川に襲い掛かる! 防御は間に合わない!


バババババッ!


その時、どこからか第三者の銃撃がデーモンに浴びせられ、奴の攻撃を防いだ。


<<グウウウウ……>>


その銃撃自体はそれ程効いてなさそうだったが、デーモンはダメージが蓄積されているためか、一旦飛び退いた。


暗い廃墟の中がサーチライトで照らされる。

ガスマスクや防弾ヘルメット、ボディアーマーを身に着け、サブマシンガン等で武装した男達が入ってきた。

男達は素早く、規律のとれた動きでフォーメーションを組む。

そして銃火器がデーモンに向けられた。


「こちらジオセキュリティ特殊部隊。デーモンを確認。排除する!」


<<生身の人間……! 貴様らごときに!>>


「テルミット弾発射!」


特殊部隊のランチャーから発射された弾体が、デーモンの体に突き刺さり、激しく燃焼する!


<<グワアアアア!!>>


バババババッ!


特殊部隊はサブマシンガンの一斉射撃も追い打ちで撃ちこんだ。


ガシャァン!


デーモンはたまらず、小さく飛翔して廃墟の窓ガラスを破り、夜の闇へ逃げ去った。


「和川さん! 助けが来たよ! ジオセキュリティを呼んでおいたんだ!」


加奈芽は嬉しそうにそう言ったが、和川は複雑な表情だった。

セキュリティ部隊のサーチライトで加奈芽と和川が照らされる。


「一般市民の少女と魔法少女03(ゼロスリー)を発見! 警備隊長、指示を!」


隊員が無線で警備隊長と呼ばれた男に指示を仰ぐ。


『今そちらに向かってる。なるべく捕獲しろ。穏便にな』


そして、セキュリティが本来守るべきであるはずの加奈芽達に、銃やランチャーが向けられた。


「魔法少女03(ゼロスリー)! おとなしく投降しろ!」


ゼロスリーと呼びかけられたのは和川らしかった。


「あなた達の仲間になるつもりはありません……!」

「和川さん……? どういう事なの?」


加奈芽は和川の脇に抱えられ、彼女はそのまま天井に向けて銃を発砲した。


「発砲したぞ!? 電磁ネット弾発射!」


その瞬間、加奈芽を抱えたまま和川はジャンプし、先ほど銃で撃って強度が落ちた天窓を体当たりで割りながら、夜空の中へ消えていった。

和川達を捕獲しようとした電磁ネットは、何も捕らえることなく地面に広がって落ちた。




――――




第02話 変身(へんしん)




「すごい……飛んでる……」

「高くジャンプしているだけですよ」


加奈芽は、おんぶされたまま、和川の跳躍に身を任せていた。

夜の住宅街を、魔法少女の力で建物の屋根から屋根へジャンプしていく。

和川が家まで送っていくというので加奈芽はスマホで自分の家までの地図を見せると、こういう状況になっていた。


「あの……名前……暁光(あけみ)さんって呼んでいい?」

「いいですよ。あなたは?」


加奈芽は自分の名前が憶えられてなかった事に少しショックを受けたが名前を伝えた。


「加奈芽さん、ですか……クラスメートなのに名前を覚えてなくて、失礼しました」

「暁光さんは……その……魔法少女、なの?」

「私の力の事ですか……彼らにはそう呼ばれてますね」


暁光は加奈芽に助けられた恩を感じているのか質問に割と素直に答えていた。

加奈芽もそれを感じつつ質問していたが、今日は私の方がたくさん助けられたな、とも思っていた。


「あのバケモノはなんなの? どこから来たの?」

「奴らは悪魔(デーモン)、地獄(ヘルズ)から来ました。私たち人間の命を狙っています」

「はあ……何のために?」

「それは……ちょっと説明するのが難しいですね……」


はぐらかされた訳ではなく、本当に説明するのが難しいらしい。


「あっそうだ! あの~血まみれで女の人が倒れてて……」

「彼女は残念でした……あの女性を狙っていたデーモンを追っている途中、奴のターゲットが私に切り替わったので、わざと尾行させていたんですが、ブラフでした。

一瞬の隙を突かれて、守れなかった」


やっぱり人があのデーモンに殺されていたとわかって、加奈芽は怖くなった。


「ちなみに事件にはならないと思います。奴らが儀式(サバト)を行った後、死体も痕跡も消えてしまいますから。原因不明の行方不明で処理されると思います」

「そ、そうなんだ」


他にも質問したい事が山ほどあったが、もうあまり時間は無いようだった。


「暁光さん、ジオ・セキュリティに追われてたみたいだけど、あれってどうゆう……?」

「すみません。それ以上はちょっと……着きましたよ」


いつの間にか、加奈芽の家の前にふわりと着地してくれていた。


「加奈芽さん、私も色々喋りすぎましたけど、この件には深入りしないで下さいね。危ないですし……怖い事は忘れて、日々の生活に戻ってください」

「は、はい。ありがとうございました」

「私こそ。助けてくれて……その……感謝してます」


そう言うと暁光は去り際に軽くお辞儀をして、また跳躍で夜の住宅街に消えていった。



――――



「お姉ちゃん帰ってくるの遅ーい! 心配したんだからね!?」


家に帰ると両親は寝ていたが、妹の灯(あかり)に怒られた。


「最近この辺に不審者が出るって聞いてないの? それに行方不明の噂だって……」

「ご、ごめん……友達に落とし物を届けてたら遅くなっちゃって」

「ふーん……でもそれだけにしては遅すぎるし、どうせまた道に迷ってたんでしょ?

もーお姉ちゃんなんだからしっかりしてよね」


灯は中学一年生だが、なんだか私よりしっかりしてる感じだ。

私は自分の部屋に戻ると、疲れていたのでベッドに横になった。


(怖い事は忘れて、日々の生活に戻る、か……)


そう言われても、やっぱり気になるなあ……


私が拾ったあのデバイス、あれを使って暁光さんは変身していた。

そしてデバイスは二つあった。

もしかして、あれを使えば私でも魔法少女に変身できる……?

でも、私が起動した時はエラーと言われて何も起きなかった。


明日また暁光さんに色々聞いてみようかな……。

でももし今日の事が無かったのように振舞われて、無視されたら?

そうなってしまったら、寂しいな……。



――――




次の日の朝、学校。


教室に入ると、暁光さんは先に来ていて、いつもの席に座っていた。

私も自分の席に座ると、恐る恐るあいさつした。


「暁光さん、お、おはよう……」


暁光さんはいつものようにスマホをいじっていたが私に気づき、


「あっ加奈芽さん。おはようございます」


と、少し微笑んで軽く会釈した。


……良かった。無視はされてない。


私は暁光さんの事や、デバイスの事を質問しようと思ったが、

人に聞かれるとまずい事もあると思い、放課後になったら聞いてみようと考えた。



キーンコーンカーンコーン



放課後になった。

帰りの支度を終え、さてどうやって切り出そうと考えながら暁光さんのほうを見ると、

暁光さんは既にいなかった。


帰るの早っ!? また追いかけなくちゃ!


校門から出ると暁光さんの後ろ姿が見えた。

大声で呼びかければ聞こえそうな距離だが……。

前にも言ったが、私は大声を出すのが苦手だ。

などと思っていると、彼女は道を右に曲がった。


私も早足で追いかけて右に曲がると、思いのほか近距離に暁光さんがいたので

思わず電柱に隠れてしまった。


(なにやってるんだろう私……これじゃまるで私が不審者だよー……)


思いなおして今度こそ声を掛けようと道に戻ると、

暁光さんは道を左に曲がるところだった。


(また見失っちゃう……!)


私は走って道を左に曲がった。

すると、


ドンッ!


何かにぶつかって私は尻もちをついた。いたた……。


「私の後を尾けるなんて、どういうつもりですか? 加奈芽さん」


ぶつかってしまったのは待ち構えてた暁光さんだった……。

しかし結構勢いがあったのに微動だにしないなんて、これも魔法少女の力?


「ご、ごめんなさい! 私……」

「まだ聞きたい事があるんですね。深入りしないで下さいって言ったのに……」

「だめかな……?」

「仕方ないですね……わかりました。私の部屋でゆっくり話をしましょう」


暁光さんはデバイスを取り出し何かを確認した。画面にはレーダーのようなものが表示されていた。


「デーモン反応もずっとありませんしね。……ちょうどタクシーが来ました。あれで移動しましょう」


自動運転電気自動車のタクシーだ。人を乗せてなくてもこうやって市内を巡回している。


「ジオ・ストラクチャー、居住区Bまで」

『かしこまりました。シートベルトを着けて、お座りください。』


電子音声案内が鳴って、発車した。


「暁光さん、昨日のデーモンを追ってるの? デーモン反応って?」

「そうです。デーモンの活動が活発ならこのレーダーに反応するんですが、今は力を潜めてどこかに隠れてるようですね」



――――



ジオ・ストラクチャーの居住区に着いた。

セントラル・タワーは市内のどこからでもその姿を確認できるが、

この近さで全容を見ようとすると首が痛くなるくらい高くそびえ立っている。


建物のエントランスにはジオ・セキュリティの警備員が二人立っていた。

昨日襲ってきた人物たちよりも軽装で、機動隊のような恰好をしていたが、

やはり肩からはスリングでサブマシンガンをぶら下げている。


彼らの横を通って建物の中に入るが、特に問題は無かった。

暁光は常にセキュリティに追われている、というわけではないようだ。


建物の中を暁光が先導し、加奈芽がついていきながら部屋に向かっていると、

廊下の向こうから警備ロボットが近づいてきた。

その姿は卵を少し細長くしたような形で、全高は成人の4分の3くらいある。


『居住区の住民リストにない人物を確認。スキャン中。』

「あの~私は暁光さんの、と、とも……」


警備ロボットは童夢女子高校にも配備されている。加奈芽は驚いたわけではないが、

ロボットにジロジロ見られて何か言い淀んだ。


「彼女は同じ高校のクラスメートで、私の客人です。警戒を解いてください」

『童夢女子高校2年、永咲加奈芽 さんを確認。ゲストとして登録しました。ジオ・ストラクチャーへ、ようこそ。』


暁光の部屋の前に着いた。

生体認証を済ませると、自動ドアが開いた。


「ここです。どうぞ入ってください」

「おじゃましま~す」


中に入ると、ワンルームより少し大きいぐらいの部屋だったので、加奈芽は意外だった。

家族と一緒に暮らしてると思ってたからだ。この部屋は家族で暮らすには少々せまい。


「座ってください。今紅茶を淹れますから」

「うん……暁光さんは、一人暮らしなの?」

「そうです」

「お父さんとか、お母さんは?」

「死にました。二人とも」

「えっ!? あ……ご、ごめんなさい」

「いえ……」


そう言いながら暁光は紅茶を持ってきて、彼女もソファに座った。


「もう5年前の事ですから……ちなみに、兄弟とかは元からいません」

「そっか……紅茶、いただきます」

「何か聞きたい事があったんじゃないですか? たぶん、これの事だと思いますけど」


ゴトッ


彼女は鞄から二つの例のデバイスを取り出し、テーブルに並べた。


「あっ確かにそれも気になるけど……」

「これは、マジカデバイス。これと契約すると、魔法少女の力を得る事ができます。但し……」

「ただし?」

「契約者が魔法少女の力に適合できれば、ですが」

「そっかーじゃあ私は無理かな。なんかエラーって言われたし」


そう言いながら加奈芽はデバイスの一つを手に取り、無理だったというのを確認するために、

電源ボタンを押した。すると、


ピコーン


『契約しますか? はい いいえ 』


デバイスに画面と文章が表示された。


「あれ?」

「あっ!? ちょっと、そんな気軽に契約しちゃダメですよ!?」

「ご、ごめん」


加奈芽はとりあえずデバイスを暁光に返した。


「昨日あなたがデバイスにエラーと言われたのは、それは私が契約済みのデバイスだったからです。

逆に、私が一度目に変身しようとした時にエラーが出たのは、それが未契約のデバイスで、一人で2台のデバイスとは契約できないからでしょう」

「そういうことか~」


加奈芽はようやく合点がいった。


「じゃあ私、その未契約のデバイスと契約すれば、魔法少女になれるって事!?」

「いえ、その『契約しますか?』の画面で、はい、を押すまで適合するかどうかはわかりません」

「適合してなかったらどうなるの?」

「わかりません。もしかしたら、力に体が耐えきれず、燃えだして灰になってしまうかも」

「ええっ!?」

「冗談です」


冗談とか言う子だったんだ……と、加奈芽は驚いた。


「とにかく、デーモンは人間の命の他に、このデバイスも狙ってます。危険なんです。生半可な気持ちで魔法少女になるべきではありません。それに……あなたを戦いに巻き込みたくない」


暁光は続けて言った。


「二つとも大事な物なので肌身離さず持ってましたが、あなたのような人が拾って、興味本位で契約したら大変です。この未契約のデバイスはここにしまっておきます」


そう言ってテーブルの上のデバイスの一つを取ると、

収納ストレージにデバイスをしまい、ロックを掛けた。

加奈芽はそれを名残惜しそうに見てたが、暁光の言う通りデーモンは怖いし、

興味本位で命をかけて戦うなんてできないな、と思い直し、納得した。



――――



暁光は帰りもデーモンを探すついでに、タクシーで送ってくれていた。


タクシーの中では二人にもう会話は無かった。

加奈芽はこのまま彼女と会話する機会が永遠に無くなってしまうのかと思うと、嫌だった。

魔法少女とかは関係無く、友達になりたかった。

しかし、恐らくこれまでたった一人で多くの時間をデーモンとの戦いに捧げてきた彼女と、無辜の市民の自分が友達になれるだろうか……?


タクシーが出発してしばらく経った時だった。


うわああああああ!!


男性の悲鳴だった。遠くはない。


「自動運転システム停止! ここで降ります!」


暁光は素早く電子決済で支払いを済ませてタクシーを降りた。


「加奈芽さんは悪いけど、ここからは徒歩で帰ってください!」

「放っとけないよ!」


暁光は加奈芽を追い払う事よりも、市民の救出を優先し駆けだした。

加奈芽も後を追う。


昨日とは別の廃墟が、赤く異様な雰囲気を放っていた。


やめてくれえええ!!


再び声がした。この中だ。


「どうしてもついてくるなら、ちゃんと隠れてくださいね」

「うん」


中に入ると、小太りの男性が傷だらけで首を掴まれていた。

掴んでいるのは……昨日の、鬼の顔をしたデーモンだ。

デーモンはこちらに気が付くと、掴んでいた首を放す。男性は地面に倒れた。


<<昨日の雪辱、晴らさせてもらう>>


暁光はデバイスを掲げ、宣言した!


「変身!!」


『エラー。』


<<バカめ!!>>


バシィ!


デーモンはダッシュし、暁光に裏拳を直撃させた!

彼女は吹き飛ばされ、放置された鉄パイプ置き場に叩きつけられた。

デバイスが転がり滑って、加奈芽の隠れてる場所で止まった。


どうして……!?

加奈芽は混乱し、デバイスを暁光に届けようとした。


「加奈芽さん……! 逃げて……!!」


暁光は鉄パイプを手に、デーモンに立ち向かった。加奈芽が逃げる時間を稼ぐために。

しかし、魔法少女といえど変身してない状態ではデーモンに対してほぼ無力だった。


<<継承者、貴様は痛めつけてから殺してやろう>>


加奈芽はハッと気づき、デバイスの電源ボタンを押した。


『契約しますか? はい いいえ 』


デバイスにそれが表示された。


(暁光さん、間違えて自分のデバイスを自宅にしまっちゃったんだ……!)


当然、彼女のデバイスを自宅に取りに戻る時間は無い。


「加奈芽さん! 契約しちゃだめです……! あなたを巻き込む訳には……!」


暁光の攻撃はデーモンに軽くあしらわれ、逆に叩かれ、蹴られ、引っ掻かれて、

彼女は傷だらけだった。


このままでは、暁光が殺されてしまう。

加奈芽に、他に選択肢は無かった。


「暁光さん、私、生半可な気持ちじゃないよ。だって、ここで見捨てたら絶対後悔する……! あなたを、助けたい!!」


『契約しますか? →はい』


加奈芽は、デバイスと契約した。


『魔法少女06(ゼロシックス)、適合しました。契約完了。』


激しい光が加奈芽とデバイスを包み、何かのエネルギーの衝撃波が辺りに広がる!

デーモンと暁光も軽く飛ばされて、両者は一旦引きはがされた。


<<新しい継承者か!? おのれ!>>


加奈芽は、自分に力がみなぎるのを感じていた。

だから、そのデーモンの突進を避けながら、すれ違いざまにミドルキックを叩き込む事ができた。


ドシャァ!


デーモンはたたらを踏みながら廃材置き場に突っ込んだ。


「自分の戦う姿をイメージして! イメージしながら電源ボタンを長押ししてください!」


暁光はこうなってしまっては仕方ないと、加奈芽をアシストするつもりになった。


「うん!」


暁光さんが応援してくれている。そう思うと加奈芽は恐怖を感じなかった。


彼女がデバイスを掲げ、宣言する!


「変身!!」


『アセンション。』


変身が承認され、電子音声が鳴る。

眩い光に加奈芽とデバイスが包まれる!


そして光の中から現れた彼女は、魔法少女に変身していた。

輝かしい髪、金や宝玉で装飾された白いバトルドレスを身に纏い、頭には金のサークレットを着け、手には先端に赤い魔石が装着された戦杖を装備していた。


ガシャン!


デーモンは廃材置き場から出てきて、体勢を立て直そうとした。


「出でよ! 赤の閃光!」


戦杖の先端の魔石から魔法のレーザーが発振され、デーモンに照射される!


ビシュゥッッッ!


<<グワアアアア!!>>


腕を振り回しながら、デーモンは避けようとするが、レーザーはそれを追尾し、逃さない。

デーモンの体に火花が迸り、爆発した。奴は吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「これが……魔法少女の力……!」


今ここに、新たな魔法少女が誕生した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔葬少女(まほうしょうじょ)アンジュブレイヴ くりんく @Krink29yomu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ