魔葬少女(まほうしょうじょ)アンジュブレイヴ

くりんく

第01話 邂逅(かいこう)

そこは、赤く爛れた大地だった。

木々は無く、岩や石、岩山などがあるだけの赤い荒野だ。

空は曇り、灰色の雲の合間から差す光も赤だった。

まるで地獄だ。


この世の物とは思えないその土地を歩く人影の一団があった。

その人物達は化学防護服を着ている。

随伴し低空飛行するドローンや、四つ足の機材運搬ロボットも見える。

この土地を調査しているのだろうか。

しかし化学防護服を着た人物達はサブマシンガンのような銃器も携帯していた。


その一団はやがて断崖絶壁の山の麓に到達した。

そこには石造りの何千年も経ってそうな古い遺跡があった。

一団が中に入っていく。

その遺跡の中は思ったほど入り組んでも深くもなかったようで、

最奥と思わしき所に程なくして着いた。

そこには石のような物でできた棺があった。

防護服の一団は光源や調査機械のような機材を設置し、棺を調査し始めた。


「主任、棺に刻まれた文字を解析中です」


主任と呼ばれた男は、調査機械のモニターを確認する。


「うむ、どれどれ……魔法少女……? 封印……?」


その時、突然背後で獣のような咆哮があがった!


<<グオオオオオオ!!>>


ザシュッ!


防護服を着た一人が血まみれで倒れる。

そのそばには異形の化物がいた。

赤黒い肌、手足には鋭い爪、背中には羽を生やし、頭はねじれ曲がった角のついた恐ろし気なヤギだった。

その姿はまるで悪魔だ。


「デーモンだと!? 撃て、撃ちまくれ!」


バババババッ!


隊長の掛け声で調査隊がサブマシンガンを斉射する。

化物の身体に銃弾が撃ち込まれ、激しく火花をあげた!

しかし化物にあまり効いている様子は無い。


<<グオオオオオオ!!>>


ザシュッ! バキッ!


ひとり、またひとりと隊員が鋭い爪で切り裂かれ、倒れていく。


「本部! 緊急離脱テレポートを! 早くしてくれ!」


残った僅かな隊員が眩しい光に包まれ、消えた。

どうやら転送装置のようなもので逃げ出したようだ。


残ったのは放置された機材と、死体と血だまりと、悪魔だけだ。

石の棺にかかった血飛沫を拭いながら、その悪魔は唸った。


<<この封印を解くわけにはいかぬ……>>



―――――



第01話 邂逅(かいこう)



日本のいつか、どこかの県、童夢(どうむ)市。


童夢市(童夢シティ)はエネルギー系大企業、ジオ・エレクトロニクス社の実験都市だった。

ジオ・エレクトロニクス社は6年前、世界初の核融合発電を成功させた。

ジオ社はその核融合発電所を心臓部に、セントラルタワーを建設した。

その周りを研究所や職員とその家族を住まわせる居住区などの建物で囲み、その一帯はジオ・ストラクチャーと呼ばれ本社ビルも兼ねている。

そしてそれらは童夢シティの中心地にもなっていた。


街には電気自動車や運搬ドローン、警備ロボットも採用され、今や独自の経済圏と行政を確立していた。

平和な、未来への夢と希望のあふれる実験都市……。


だが、近年、そこでは人知れず行方不明事件が頻繁に起きていた。




そんな童夢シティの中の高等学校の一つ、童夢女子高校。

その教室の机でつっぷして寝ている女の子がいた。

彼女は夢を見ていた。




(テレビの音)「四人は! プリティキュウリー!」


彼女は夜遅い時間、録画した女児向け魔法少女アニメを見ていた。


「お姉ちゃん、またこんな時間にそんなの見てるの?」


妹の灯(あかり)だ。


「だって、日曜は日中お父さんもお母さんいるし、1人で見ないと恥ずかしいみたいな……特に怒られたりするわけじゃないんだけど」

「いや~そういう事じゃなくて……私も昔は見てたけどさ~。いい加減卒業しないの?」

「別にいいじゃん……まあ最近はちょっと惰性で見てるっていうか……一応確認するっていうか…」

「ふーんそうなんだ。私寝るね。お姉ちゃんも早く寝ないと寝坊するよ~」

「はーい。おやすみ~」



キーンコーンカーンコーン



ホームルームの予鈴が鳴って私は起きた。


(今の夢……? 昨日の夜の事をみてたみたい……こういう夢ってめずらしいような?)


寝ぼけた頭で呆けてると担任の先生が教室に入ってきた。


「おはよーう。みんな今日も元気か~? ホームルーム始めるぞー」


担任の板東先生だ。バンドをやってそうなナイスミドルって感じで、

密かに一部の女子に人気があるらしいが、私は興味ない。

点呼が始まって少しして、私の名前が呼ばれた。


「えー、永咲 加奈芽(ながさき かなめ)」

「ふぁい」


夜更かしのせいか気の抜けた返事が出てしまった。


「オイオイ夜遊びか~? 大人しそうにみえてやるねぇ!」

「あ……大丈夫でーす……」


先生にからかわれたが、あいまいな受け答えでなんとか受け流した。


「えー、和川 暁光(のどかわ あけみ)」

「はい」


隣の席の和川暁光さんだ。

私はこの人のほうが気になっている。

ミステリアスな雰囲気、美しく長いロングヘアー、そして控えめに言っても美少女だ。

まるで魔法少女アニメのクール担当のような……。

あまり友達がいる様子は無く、休み時間とかも忙しそうにスマホをいじっている。

ゲームとかをしてるわけじゃなさそうだけど、部活にも入ってないみたいだし、放課後とか何してるんだろう……?

ジオ・ストラクチャーの居住区に住んでるらしいけど、親がジオ社に勤めてるのかな?


「……? どうかしましたか?」

「ごっごめん……! なんでもないです……」


私は慌てて視線を逸らしうつむいた。

無意識にジロジロ見ちゃってたのかな!?

変な子って思われたらどうしよ~……

いや別に変な意味で見てたんじゃないよ!?

私はノーマルだ。たぶん……。


「あ~最後にちょっとお知らせだ。最近この辺に不審者が出るって情報が来てる。プリントがあるから回してくれ」


先生が少し真面目な口調でお知らせした。

プリントが配られて前の席の人から渡される。


「みんな、怪しいと感じたり危険が迫った時は、自分でなんとかしようとせず、ジオ・セキュリティに連絡してくれ。以上だ」


プリントには注意喚起の文章とジオ・セキュリティに連絡できるサイトのQRコードが印刷されていた。

ジオ・セキュリティというのはジオ社直属の警備会社で、主に童夢シティの警備保障を担っている。

普通の警察もいるはずなのだが、この街ではなぜかジオ・セキュリティが警察みたいなものだ。

機動隊みたいな恰好をしていて、なんだかものものしい。

おまけにテロ対策とかの理由でサブマシンガン? みたいなのを持っていて、ぶっそうで私はあまり好きじゃない。

日本で警備会社があんなの持てるなんて、大企業の力、ってやつなのかな……?

ともあれ、不審者は怖いし、私はスマホにジオ・セキュリティの連絡サイトをブックマークした。



キーンコーンカーンコーン



鈴が鳴り、今日の学校は終わった。


「つかれた~……」


この学校も市内の他の学校と同じく進学校というやつで勉強が難しい。

未来の研究者や技術者を育てる~みたいな感じで、どこもジオ社の傘下になってるみたい。

そのためか部活に入ってる子は少ない。頭がよくて要領がいい子は違うみたいだけど、残念ながら私は良くないほうなので部活に入る余裕ないし、家に帰ったら今日の復習と予習や宿題もしなきゃ……。

息抜きは趣味のアニメの情報とか絵をネットであさるくらいしかできないよ~。

流行りのスマホアプリゲームとかしたいなあ……でもああゆうのって時間もお金もかかるんだっけ?


ゴトッ。


下駄箱で靴を履きかえていたら何かが落ちる音がした。


「スマホ……?」


外に向かう方向の少し先にスマホのようなものが落ちていた。

そしてさらに少し先には……和川さんの後ろ姿だ。


和川さんがスマホを落とした……?

もしかしてこれって……話しかけるチャンス!?

私はスマホを拾い、声をかけようとした。


「和川さ……!」


和川さんはもう校舎を出てかなり遠くの校門あたりまでスタスタ歩き去りつつあった。

速い!? 歩くの速いよ和川さん!?


引っ込み思案な私は大声も出せなかった。

走って追い付いて渡さなきゃ……!


ん?このスマホを使って和川さんに連絡できるのでは?

スマホの電源ボタンらしきものを押す。


『エラー。』


電子音声がむなしく響き渡る。


てか和川さんが今スマホ持ってないんだから連絡できるわけないじゃん!

やっぱりバカだ私!

本当に走って追い付かなきゃ!


走りながら和川さんが落としたスマホらしきものを確認する。

というかこれってスマホなのかな?ちょっと変わった装飾がついてるけど……、

よく見たらかわいいかも♪ なんだか魔法少女の変身アイテムみたいな……。


意外な和川さんの趣味が知れた気がしてちょっと嬉しかった……その時は。




――――――




「和川さ~ん……どこ~……」


私は走って追いかけたが彼女を完全に見失ってしまっていた。

明日渡せばいいかな? いやすごく大事な物だったらどうしようとか悩みながら

人気の少ない住宅街を彷徨う……。

次の角を曲がっていなかったらあきらめよう。と思っていたが、


(いた……! 和川さん……!)


和川さんの後ろ姿が見えた。そんなに遠くはない。

しかし声を掛けられない問題があった。


(なんか不審者っぽい人がいる……!)


電柱の陰にサラリーマン風の男があからさまに隠れていたのだ……!

その男は和川さんの様子を窺っている様だった。


(ジオ・セキュリティに通報しなきゃ……でも和川さんにも知らせないと危ないかも……どうしよう!?)


その時、和川さんが急に走り出して道を左に曲がった。速い!

サラリーマン風の男もそれを追いかけて走り出し左に曲がった!


(和川さん不審者に気づいて逃げ出したの……!?)


ジオ・セキュリティに通報する事も考えたが通報してからセキュリティが来るまでにはタイムラグがある。

今は危険がすぐそこに迫っている。二人なら不審者くらいなんとか撃退できると考えた。

私も走りだし角を左に曲がった!


しかし、そこには和川さんの姿もサラリーマン風の男の姿も見えなかった。


それどころか何か異様な雰囲気だった。

空は急に曇り、雲の合間から赤い光が差し、赤い霧が漂っているようにも感じた。

近くに空き地があった。霧の発生源はそこからのようだった。

空き地に女性が倒れている。そしてその体を囲むように赤い魔法陣のようなものが地面に描かれている。

それら全体が淡く赤く発光していたが、それよりも、その女性の身体は血まみれだった。


(なんなの……!?)


人が殺されている……!?

それ以上に不気味な様相に圧倒されて、私は動けなかった。

それらの怪しげな儀式のそばにサラリーマン風の男が佇んでいる事にも気づけなかった。


<<クキキキキ……!>>


その男が発した異様な声で少し我に返った。

恐怖がショックを上回り、自分の体に危険信号を伝えた。


(逃げなきゃ!)


踵を返す瞬間、男と目が合った。


<<クキキキキ……!>>


全速力で逃げた。

追いかけられているか確認するために後ろを振り返る余裕はなかった。

しばらく走ると、隠れられそうな廃墟があった。


「ハァ……ハァ……」


そうだ、ジオ・セキュリティに通報しなきゃ。一旦隠れてセキュリティに通報して時間を稼ごう。

廃墟に入り、放置されていた土管の中に隠れて、スマホでブックマークしておいたサイトからフォームに記入する。


『不審者に追いかけられてます。助けて』

『通報を受け付けました。しばらくお待ちください。』


しばらくとか何のんきな事言ってんだ~!

こういう時こそ電話の出番でしょ!?

しかし残念ながらジオ・セキュリティは電話の受付はしてないようだった。


一息ついて、あの倒れてた女性の事が気になった。ボロボロでよくわからなかったけど、和川さんの恰好ではないようだった。

でももし和川さんだったとしたら、私は見捨てて逃げたの……?


カツカツカツ……。


足音だ。

誰かが廃墟に入ってきた。


<<継承者がもう一人いたとはな。隠れても無駄だ>>


うまく言えないが、身の毛がよだつような響く声でサラリーマン風の男は喋った。


<<出てこい。デバイスを寄越せ>>


こっちに近づいてくる。

デバイス……?

隠れても無駄なようなので出てきてイチかバチか話しかけてみる事にした。


「なんなんですかあなたは……?」


<<この姿を見れば嫌でもわかるだろう。ハアアアア……>>


サラリーマン風の男の体が赤い濃霧に包まれ、変身する。

そしてそこには異形の化物がいた。

赤茶色の肌、手足には鋭い爪、背中には羽を生やし、頭は角が二本ついた鬼のようだった。

その姿はまるで悪魔だ。


「バ、バケモノ!?」


私はその姿を見て、恐怖より驚きが勝ってしまった。

まさか魔法少女アニメの敵のようなバケモノが目の前に現れるなんて……。


<<未契約者か!? まあいい、ならばデバイスも命も頂く!>>


「そうはさせません!」


その言葉の方向から、鉄パイプが飛んできた!


ガンッ!


パイプは悪魔のようなバケモノに刺さる勢いだったが悪魔はそれをかろうじて腕で弾いた。


その鉄パイプを投げたのは……和川さんだった。

彼女は懐からスマホのようなものをとりだした。

私が拾った物と同じ、不思議な装飾が施されている……スマホのような、デバイス。

もしかしてこれってアレのように……私が好きだったアレと同じように……、

変身するんじゃ……?


和川さんがデバイスを掲げ、宣言する。

そう、魔法少女のように。


「変身!!」


『エラー。』


電子音声がむなしく響き渡る。

あれ……?


「嘘……!? どうして!?」


和川さんは驚いている。私も驚いている。

今のは絶対なにかに変身する流れだったのに。


<<ふざけているのかーーー!!!>>


悪魔が和川さんに突進する。

彼女はそれを紙一重で避けて、もんどりうって私の側に来た。


ドガァン!


悪魔はその勢いのまま派手に廃墟の壁を突き破り、一時姿が見えなくなる。


「そこのあなた! 早く逃げて!」

「あの……私、和川さんに落とし物届けようと思って……追いつけなくて……、

ごめんなひゃい……!」

「え?」


噛んでしまったがスマホのようなデバイスを和川さんに渡す。


「そういう事ですか……よりによって自分のを落として、未契約の方を持ち歩くなんて……私って本当ドジ……」

「よくわからないけど、和川さんにもそうゆう所あるんですね」

「ええ、ここはもう大丈夫ですから、あなたは逃げてください」


ちょっと打ち解けた感じで会話できた!

私は逃げつつも嬉しさを感じながら物陰に隠れてこっそりなりゆきを見守った。


ドガッ!


壊れた廃墟の壁の穴から瓦礫を弾き飛ばし再び悪魔が現れた。


<<ヌウウウウウ……>>


それに対峙する和川さん。

彼女がデバイスを掲げ、再び宣言する。


「変身!!」


『アセンション。』


電子音声が鳴る。

そして、彼女はデバイスと共に眩い光に包まれる!


そして光の中から現れた彼女は、美しかった。

以前よりもさらに輝きが増したロングヘアーの髪、黒を基調として金や宝玉で装飾されたバトルドレスを身に纏い、

ゴシック風のヘッドドレスを着けて、腰には一対の2丁拳銃を装備していた。


ん……?拳銃……?


和川さんは2丁拳銃を取り出し、悪魔に向けてフルオートで撃ちまくった。


ドガガガガガガッ!


悪魔はそれをモロに受けて、全身から火花を散らし、よろめく。


<<グワアアアアア!!>>


もしかしてこれって……私が思ってた魔法少女じゃない!?


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