予想外の転校生 美緒side
「ねぇねぇ美緒っ」
「どうしたの
やけに興奮した様子の優里が話しかけてきた。
優里は仁田高校で出来た最初の女友達で、3年生になった今でもとても仲が良い。
身長は低く、皆からは可愛いマスコットキャラみたいな弄りをされている。本人は弄られる度に顔を真っ赤にさせて怒ってるけど、それが逆に助長させている気がする。
「今日転校生が来るんだってさ!」
「え?そうなんだ」
「しかもなんと3年生の男子だって‥‥‥!」
「へぇ」
転校生がくるなんて知らなかった。
というか―――。
「この時期に転校するって……中々だね」
「うん、私もそう思ったけどどうやら本当みたいだよ」
私達は1か月前に3年生になったばかり。
今年は受験の年だから、今まで通りの勉強じゃ絶対にダメだとおもう。この高校は有数の進学校で、みんな名門大学を狙っているから私も最近は勉強に本腰を入れている。
だから尚更不思議。
なんで3年生が今の時期に、しかも仁田高校に転校するんだろう、って――。
「編入試験は難しいってよく聞くけど、この高校はどうなんだろ?」
「うーんどうだろ。私もよく分かんないけど一般受験よりは難しいとは言われてるよね」
「だよね。だとしたらその男子凄いね」
私もこの高校に受かる為にどれだけ猛勉強したことか‥‥‥。
3人で絶対合格するって決めたもんね。
私だけが落ちるなんてでき、な、い‥‥‥3人?うん…‥?
幼馴染の翔と私は、仁田高校に絶対一緒に合格するって約束した。
そして無事に合格した。昔からずっと一緒に育ってきた翔と同じ高校に入ることが出来て本当に嬉しかった。ボードに受験番号があった時、余りに嬉しすぎて翔と抱き合って大喜びしたのを覚えてる。
――あぁ、あの時は本当に嬉しかったなぁ。
だけど、嬉しかったのは嬉しかったんだけど、それが原因で私が翔と付き合っている噂が広まったんだよね‥‥‥。それに関しては正直‥‥‥あんまり嬉しくない。
翔は今じゃトップモデルなんて言われてチヤホヤされてるけど、昔は本当にヤンチャな子で、周りの人たちは心底翔を怖がっていた。私はそんな翔を鎮めるために色々頑張った。そのお陰で今の翔が出来上がった訳だけど、皆はもっと私の事褒め称えるべきだと思う!本当に大変だったんだからね、たった2人で翔をここまで大人にしてあげるのは‥‥‥。
だから、私にとっての翔はいわば弟みたいな存在。
揶揄うと顔を赤くさせる所とか、本当に子供っぽいなって思う。
そういう所は可愛いと思うけど、皆が言う”好き”って言う感情とは違うと思う。
確かに翔のことは好き。本当に本当に大事で大切な存在。私を支えてくれた一人だから。
だけど一人の異性として好きだとは―――どうしても思えない。
だって私には大好きな人が―――。
「う”っ」
「どしたの美緒‥‥‥?」
「な、なんでもないよ」
「そう?少し顔青いけど‥‥‥」
うぅ‥‥なんか急に頭痛くなってきた…。
とその時、教室前方の扉から数人の男子グループが入ってきた。
その内の一人には翔が入っており、一般的に言われる高校生とはかけ離れた存在感を放っている。
トップモデル兼現役高校生の名は伊達ではない。
「よっ美緒」
「おはよう翔‥‥‥」
「うん?顔色悪いけど体調悪いのか…?」
「ううん、ちょっと頭痛がしただけ。今はなんともないよ」
「そうか。美緒がそう言うんだったら信じる」
翔は私の言う事は何故か全部信じてくれる。
‥‥‥ううん、誤魔化しは良くないね。
私は知っている。
翔が私の事を異性として好きだという事を―――。
気付いたのはかなり前。
露骨にそういう臭いを感じさせるから、嫌でも気付いてしまった。
けど当の本人は私が翔の好意に気付いてないと思っているらしい。
鈍感すぎるよ翔‥‥‥。
そういう経緯もあって、私が翔と付き合っているという噂は全く絶えない。
むしろ助長していってる気がする。
私は片っ端から否定しているんだけど、全く皆信じくれない。
――恥ずかしがりやだねぇ美緒は。
――自分に正直に、だよ?
――うんうん。私も素直になれない時期、あったなぁ‥‥‥。
もううんざりして最近は否定すらしない。
全くの事実無縁なんだから、私は別に気にしないことにした。
まぁでも、結局の所諸悪の根源は―――。
「美緒、今日転校生が来るって知ってたか?」
こうやって翔が私に頻繁に話しかけてくるからなんだけどね。
「うん、知ってるよ。さっき優里に聞いた」
「そっか。どんな奴なんだろうな?」
「さぁ‥‥‥でもこの高校に編入するくらいだから頭はいいんじゃない?」
「だな。俺らも苦労したもんだよ」
私と翔は席が隣という事もあってよく話す。
と言っても9割翔から話しかけてくるんだけど。休み時間はいくらでも話していいんだけど、授業中にも話しかけてくるのはやめて欲しい。この前普通に先生に怒られたから。
◇
「おーいお前ら。既に知ってるかもしれんが今日は転校生が来ることになった。転校してきた子は男子生徒なんだが、このクラスに来ることになった。自己紹介してもらうから静かにしとけよ」
担任が教壇に立ち、気怠そうに話を始めた。
転校生に然程興味ないのか、担任は淡々と話を終えた。
「男子!?カッコ良かったらどうしよ~!」
「え~女子じゃないのかよ。つまんねぇ」
「この時期に転校って珍しいね」
皆口々に好き勝手話し始める。
「低身長イケメン求む!」
優里は前々から同じくらいの身長の男子と付き合いたいって言っていた。
理由は――「身長差は程々だからこそ映えるんだよ!」らしい。
私にはよく分かんないけど、優里は真剣そうだったからゆっくりと頷いておいた。
「入っていいぞ」
担任が扉を開け、そこから現れたのは―――
「え‥‥‥」
―――昨日出逢った、醜い男だった。
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