~幕間~ 神の会議


~まえがき~


 この話は本編とあまり関係ありませんので、記憶の片隅に置いておくくらいで結構です。この話を読まずとも本編に支障はでませんので。

 今回も少しややこしい内容だったので分かりにくい箇所があればじゃんじゃん質問してください。

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 そこはまるで雲の上かのような空間で、上下左右どこを見ても続くのは白。

 黒インクを垂らせば瞬時に暗黒に染まるだろうその空間は、余りにも穢れを知らない。

 光源は無い。

 しかしながら白い輝きを放つその空間は、異次元の空間とも取れる。

 その空間はどこまでも続いているかのようで、しかしすぐ傍に壁があるようにも見える。


 不可思議―――。


 人間の脳では到底処理しきれない空間。

 

 人間のそこで、今――――何度目かも分からぬ会議が開かれようとしていた。



 ◇



「姉様‥‥‥また人間のいざこざに介入したの?」

「‥‥‥」


 紫の瞳に同色の髪。

 女の形をしたそれは――――この世の物とは思えない圧倒的”美”を放つ。


「はぁ?またかよお前。飽きねぇ奴だな」

「‥‥‥妾が決断した事じゃ。有無は言わせん」

「はっ、今のお前には何の力もない癖によぉ。粋がってんじゃねぇぞチビ」


 チビと呼ばれた一際小さい背をした女―――地母神は、無礼な言葉遣いをされキッと目の前の男を睨む。


「こら汚い言葉は使わないのユーリ。姉様も何か理由があってのことだったんでしょ?」

「‥‥‥あぁそうじゃ」


 紫の女は軽く男を宥める。


「一々理由付ければ良いってもんじゃねーだろ。このチビが禁忌である≪人魂じんこん秘術≫を今まで何回使ったと思ってんだよレイ。……なぁ?チビ。別にお前が人間に干渉しようがしまいが俺はどうでもいい。だがな、お前の独断で俺らに迷惑かけるのは話がちげーだろ。確かに一昔前のお前だったらいくら≪人魂秘術≫使っても俺らに影響はないだろうよ。けどよ――――今のお前に一体何が出来るって言うんだ?」

「っ……!」


 地母神は到頭抑えが効かなくなりユーリと呼ばれた男に飛び掛かろうとした。

 しかし―――、


「止めぬか」


 中央に居る一際老けた男に止められしまう。

 長く白い髭を蓄え、皺が刻み込まれた目はおっとりとした印象を与えてくれる。

 

 老神――――ゼノス。

 最年長の神である。


「ちっ、分かったよ。けどよゼノス。お前はどう思ってるんだ?このチビの事」

「チビチビチビ言うんでないわ!」

「はっ、事実だから言ってんじゃねーかよ」


 ゼノスは再び始まった論争を止める。


「よさんかユーリ。あんまり五月蠅いと会議を抜けてもらうぞ?」

「はいはい。分かってますよぉ」

「はぁ‥‥いつになったらお主等は仲直りするのか‥‥‥」


 ゼノスは呆れたように嘆息する。


「しかし、ユーリの言っておる事は見当違いでもなんでもないの」

「っ」

「確かに今のキュリウスの力で≪人魂秘術≫を使うとなると、膨大なる≪神魂しんこん≫を消費することになるだろう。見た感じ少しは≪神魂≫は残っているようだが、このまま使い続ければすぐになくなる事は明白。‥‥‥キュリウス、どうしてそこまで人間に肩入れする?お主は人間のせいでその様な姿に――――」

「みなまで言わんでえぇわゼノス。確かに妾はこんな見てくれなってしもうたが、後悔はしておらぬよ。あの時とった選択は最善じゃったとな」

「‥‥‥そうか」


 地母神―――キュリウスは、瞳をそっと閉じ遥か遠き過去を回顧した。

 

「私はもう一度‥‥‥本当のキュリウス姉様を見てみたいわ」


 紫の美女―――レイは、キュリウスの手をそっと包む。


「‥‥‥すまんなレイ」

「ううん、私、まだ諦めた訳じゃないから。姉様の≪神魂≫が全て回復するまで絶対に諦めないよ。≪神魂≫が全て回復すれば、きっと姉様は元の姿に戻るから‥‥‥」


 レイとキュリウスは姉妹神である。

 妹であるレイは昔から姉であるキュリウスを慕っており、常日頃からキュリウスの世話をしている。

 遥か昔、キュリウスは使用した≪人魂秘術≫によって自らの体を”代償”とした時があった。そのせいでキュリウスは今の様な体になってしまった。

 その時に消費した莫大な量の≪神魂≫は、キュリウスの≪神魂≫の限界まで行き、すぐに底をついた。


 ≪神魂≫とは言わば神を創造する思念体であり、エネルギーでもある。

 神から≪神魂≫を抜き取ればそこには何も残らないのだ。


「しかしキュリウス。お主の≪神魂≫は今かなり少ない。だから我々の≪神魂≫を貸し与えている訳だが、そう何回も≪人魂秘術≫を使われると我々の≪神魂≫もどんどんと減ってしまうのだ。だから……なぁ?」

「‥‥分かっておる。今回で最後じゃ。許してくれ」


 使用する≪人魂秘術≫によって消費される≪神魂≫の量も変わる。

 

 キュリウス(地母神)がだいきに使用した【命分け】も、数ある≪人魂秘術≫の内の一つであり、そして―――――、


「それならいいのだが‥‥‥。してキュリウス、今回はどのような≪人魂秘術≫を人間に使ったのだ?」

「あ、それ私も気になるかも。姉様何使ったの?」

「どうせあれだろ?【シャアリング】だろ?」

「【シャアリング】もかなりの≪神魂≫を消費するのだが‥‥‥」

「そうなの?姉様?」



 キュリウスは重たい口を開く。

 そして。


「‥‥‥妾が使うたのは――――【命分け】じゃ」


「「「「「「っ!」」」」」」


 キュリウスの衝撃的な発言に、先程まで黙っていた3柱の神も同様に驚く。


「お、おいチビ!お前また【命分け】使ったのか!?」

「あ、あぁそうじゃが……どうしたじゃ?そんな間抜け面して」

「‥‥‥おいチビ。【命分け】はな、確かに少ないの量の≪神魂≫で使用することが出来る。だがどれだけ代償が大きいか分からない訳じゃねーだろ…?」


 数ある≪人魂秘術≫の中の一つ―――【命分け】。

 

 この秘術は少ない≪神魂≫で使用できるが、その分代償は大きい。

 

 しかし現状キュリウスの≪神魂≫は少ないため、【命分け】しか使用できない状況だった。


「‥‥‥あぁ、承知の上じゃ。その人間も理解した上で施したんじゃ。妾も一度は止めたが‥‥‥決意は揺るぎはせずじゃった」


 キュリウスは先程のだいきを思い出した。

 目も当てられない程醜い顔になっただいきだったが、最後には少しだけ自信を取り戻していたようだ。


「ほぉ‥‥‥その人間、少し興味があるな。名を何という」

「だいき、という男じゃ。心優しい男じゃったよ。あのような澄んだ瞳、妾は知らんのぉ…」

「‥‥‥キュリウスがそこまで言うとは。我も一度会いに行ってみようか」


 ゼノスはだいきという人間に対して非常に大きい”期待感”を膨らませた。


「あぁ‥‥‥全ての人間がだいきのようになれれば良いのにのぉ‥‥‥」


 キュリウスの呟きには、誰も反応しなかった。


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