過去は都合のいい様に改変された
コンコン――。
「玲奈、夜ご飯だって。居る‥‥‥?」
だいきは妹である玲奈の自室を軽くノックした。
玲奈の自室の扉には色とりどりの装飾がされており、まさに”女の子の部屋”と言うべき外観である。
「あーちょっと待ってー。もう少しで終わるからぁ」
「‥‥‥?」
だいきが扉越しから声を掛けた直後、玲奈の自室からゴソゴソと物音が鳴ったと思うと、直ぐに玲奈の少し動揺した声が聞こえた。
待つこと約1分。
玲奈はラフな格好で部屋から出てきた。
「遅いよー兄さん。待ちくたびれちゃって寝ようかと思ったよ」
「っ、あ、ああごめん。少し用事があってね‥‥‥」
「…?そう。でも出来るだけ早く帰って来てね。皆揃わないと夜ご飯は食べれないんだから」
「そう、だね」
‥‥‥どうやらそのルールは変わっていないらしい。
僕たちの家族は、細かいけれど沢山の”ルール”がある。
それは家事だったり、日頃生活する上での決まり事だったりする。
玲奈が言った、”家族全員揃わないと夜ご飯は食べれない”というのもそのルールの一つだ。何でそんなルールがあるのかよく分からないけど、昔からずっと守ってきたルールなので特になんとも思わない。
「だいき帰って来てたのか、今日は遅かったな」
玲奈と一緒に階段を降りリビングに出ると、料理の並べられたダイニングテーブルの席に父さんが座っていた。
さっきまでは居なかったけど、風呂にでも入っていたのだろうか。
「ちょっと用事があってね」
このセリフ、今日で何回目だろう。
「そうか、けどあんまり遅くなるなよ。最近は何かと物騒だからな」
「‥‥‥うん、ごめん。今度からそうするよ」
これで確信に変わった。
やっぱりみんな、僕のことを覚えてくれているみたいだ。
母さんも父さんも――そして玲奈も。僕の顔を見ても瞬き一つしない。
こう見ると、僕が【命分け】を使う前となんら変わらないように思えてしまう。
けど地母神様は言っていた。
――血縁関係にある者は、お主を家族だとは認識する。じゃがそれだけじゃ。
それ以上――何も無い。
分かっているけど、どうしても否定したくなる。
だって‥‥‥どう見たって変わらないじゃないか。母さんはいつも通り話しかけてくれるし、父さんだって不器用ながらに配慮してくれてる。
玲奈だって――――あっ‥‥‥。
「だいきどうかしたの?」
「‥‥‥なんでもないよ」
あぁ…やっぱり何も変わらないなんて、あり得ないよね‥‥‥。
だいきの隣には――――本来居るはずの玲奈の姿が無かった。
ダイニングテーブルを挟んで座るのがこの家族の”ルール”。
だいきの家族は、だいきを含めて4人だ。
以前は母さんと父さん、だいきと玲奈の隣り合わせ――2対2でテーブルを隔てて座っていたのだが、【命分け】を使用した今となってはだいきの隣には玲奈は居ない。
母さんと父さんの席の位置は変わっていないが、玲奈の席の位置が変わっていた。
だいきは両親に対面する形で座り、玲奈はテーブルの隅の席に移動していた。
細かい変化かもしれない。
けど僕たち家族にとっての”ルール”は、暗黙に不動なものだった。
席次が変わったくらい、って思われるかもしれないけど、これは―――。
「用事って一体何があったの?」
僕が一人思考に耽っていると、母さんが先程の話を盛り返してきた。
「い、いや、言う程の事じゃないよ‥‥‥」
「そうならいいんだけど、遅くなる時くらい連絡しなさいよ?明日は近所の高校に転校する日なんだから、何かあったらいけないでしょう?」
「え」
今、なんて言った‥‥‥?
「え、ってだいき。もしかして忘れてたの?この前編入試験受けたばかりじゃない」
「‥‥‥」
‥‥‥ちょっと待ってくれ。
「あの学校は難しいがよく受かったなだいき」
「それにしてもだいきが玲奈と同じ高校に入りたいって言った時は驚いたわ」
「私が一番驚いたよ‥‥‥」
頭が‥‥‥追いつかない‥‥‥。
「なんて名前の高校だったかしら?」
「えぇ~?娘の高校の名前覚えてないとかお母さん‥‥‥」
「ち、違うのよ玲奈!えっと何だったかしら‥‥‥に、ニラ高校だったかしら?」
「はぁ‥‥‥全然違うよ。一応うちの高校結構有名なんだけどね……」
「そ、そうなの?」
「うん。超美人なハイスペック生徒会長とか。あとトップモデル兼現役高校生の3年生の先輩とか。あとえっとー‥‥‥あっ、その先輩の彼女って噂されてるメッチャ可愛い人とか。知らないの?」
「‥‥‥初耳ね」
それって―――。
「―――
だいきは自分が通っている高校の名前を言った。
「うん。そうだよ兄さん。というか入学する人が覚えてなかったらあれだけど」
「‥‥‥」
僕は、どうすればいいんだ……。
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