愛は消えないんだよ
「お主が決断したことじゃ‥‥‥後悔は捨てたのじゃろう?」
「う”ぅっ、は、はいっ」
「男がメソメソ泣くもんじゃなして‥‥‥」
「みおぉ……美緒ぉっ‥‥‥!」
「はぁ、困ったもんじゃの‥‥‥」
だいきは地面に突っ伏して泣いていた。
――どんなに愛が強かろうか所詮は人の子よ。悲しさには勝てんのが理の常。こ奴の覚悟も所詮は‥‥‥。
「お主の気持ちもよぉ分かる。じゃがの、過去は変えられんのじゃぞ」
「‥‥‥」
「お主はそれを背負ってゆく覚悟があったのではないのかぇ?」
「‥‥‥はい」
「じゃったら前を向かんか」
地母神は敢えて突き放す様に言い、だいきを励まそうとした。
「僕は、僕は‥‥‥生きて、行けるんでしょうか」
「っ」
「地母神様、僕の顔‥‥‥酷いでしょ」
「‥‥‥」
「美緒に、あんな目で見られた事なんてなかったです。ははっ、僕の顔どうなってるんだろ‥‥‥」
だいきは力なく笑う。
すべてに希望を無くしたかのように、地に伏して脱力している。
「それでもお主は‥‥‥生きるんじゃ」
「っ…」
それでも地母神は残酷な現実を突きつける。
「どんなに過酷な道じゃろうと、お主は生きるんじゃ。全てを投げ出したくなる日も来るじゃろう。死にたくなる日も来るじゃろう。‥‥‥じゃがの、この世には生きたくても生きることが出来ない人間が居る事を知るんじゃ。どんなに素晴らしい未来を思い浮かべようと、どんなに夢に向かって追いかけても―――命は、脆いんじゃ」
地母神は遙か遠き過去を回顧する。
その顔は慈しみに満ち溢れているかのようだ。
「いずれみな死ぬ。それが世の理じゃ。どんなに足掻こうとそれだけは絶対なのじゃ。生まれ育ち成長し老い、過程は違えど終点はみな同じじゃよ」
「‥‥‥」
「お主もいずれ死ぬじゃろう。お主の愛する女子も死ぬじゃろう」
「は、い‥‥‥」
「じゃがの――――”愛”だけは死なんのじゃよ」
「ぇ‥‥‥」
だいきは枯れかけた声を出す。
「お主の誰かを愛する気持ちだけは、絶対に朽ちんのじゃよ。
愛はのぉ、強いぞ……。お主が思おちょる何倍も強いもんなんじゃ。愛だけは、妾にもどうしようもできん」
「愛、だけは‥‥‥」
「そうじゃ。じゃからの、だいき――――」
「愛だけは‥‥‥消えない。僕は―――」
「「生きろ(る)!」」
◇
光は収束した。
「あれ?私何でこんな所に居るんだろ?」
ここって山だよね?
あ!ここ覚えてる!昔一緒に来たことがある山だ!あの神社も懐かしいなぁ。一緒に来たよね‥‥‥あれ?誰と来たんだっけ?二人で来たのは覚えてるんだけど‥‥‥誰だっけ?翔かなぁ?うーん、違うような気がする。
美緒は一人立ちながら考えていると、ふと横から視線を感じ目線を上げた。
するとそこには―――。
「っ!?」
――男が居た。それも、醜い顔をした。
醜い男は美緒から視線を外さず、瞬きもせずに凝視していた。
「み、お‥‥‥」
「っ!」
え!?だれあの人!?なんで私の名前知ってるの!?私の知り合いにあんな人居たっけ‥‥‥?いない、よね?じゃあなんで私の名前知ってるんだろう。
美緒は悪寒を感じ始め、無意識に体を両手で抱いた。
「‥‥‥」
それにしても、あの顔‥‥‥。私あんな顔の人初めて見たかも‥‥‥。
細く小さい目は不自然に吊り上がり、鼻はのっぺらと平べったく、厚ぼったい唇にボツボツとした肌。
だれがどう見ても、こう答えるだろう。
――ブサイクだと。
あまりにも醜い顔に、美緒は胃液がゾクゾクと上がってくるのを感じた。
「う”っ‥‥‥」
「みお‥‥‥」
「っ!いや!来ないで!」
「っ!」
「誰よあなた!なんで私の名前知ってるのよ!」
美緒は生理的にその顔を受け付けなかった。
腕には鳥肌が立ち、既に拒否反応が出ている。
だいきはじりじりと近づけていた足を止め、大きな涙を流しながら言った。
「ごめん、なさい」
「‥‥‥」
あの声どこかで‥‥‥。気のせい、かな?
「あなた……名前は?」
美緒は勇気を振り絞って聞く。
本当なら明らかな不審者を前にして逃げるべきなのだが、何故かと美緒は目の前の存在が決して自分にあだなす存在だとは思えなかった。
「っ……僕の名前は、だいきです。」
「だい、き‥‥‥」
どこかで‥‥。
私、なにか大きな事忘れている気がする。絶対に忘れちゃダメなことを‥‥‥。
だめだ、思い出せない‥‥‥。
だいき、だいき、だいき。うーん思い出せない。
でも、どうしてだろう。
この名を呼ぶと―――
「だいき……」
―――心が暖まる気がするんだ。
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