嫌な予感 美緒side

「どうしたのだいき!?」

「ううん、ごめん大丈夫だから」


 美緒は突然泣き出しただいきに駆け寄るが、だいきは手を横に振ることでそれを制す。

 美緒はだいきが泣いたところなんて初めて見たため、どうするべきか分からずあたふたとしていた。迷った末に、美緒はだいきの隣に座り、未だ涙の絶えないだいきの背中を優しく摩った。


「落ち着いた?」


 背中を摩りながら出来るだけ優しいトーンで声を掛ける。


「うん、ありがとう美緒。ごめんねいきなり泣き出しちゃって。なんだか僕でもよく分からないんだ。突然涙が出てきちゃったんだ‥‥‥」

「ううん、いいんだよだいき。そういう時、私も数え切れない程あったから…」


 実際、だいきには自分が泣いた理由を明確に分かっていた。

 しかしそれを言ってしまう訳にはいかず、だいきは嘘をついた。


「あ、観覧車回り切っちゃうね」

 

 あと少しで降りなくてはいけない。

 美緒にはそれが途方もなく悲しく感じられた。

 しかしその理由は分からない。ただ何となく、もっと回っていたい。もっとだいきと一緒に居たい。そんな感情だったのかもしれない。


「美緒‥‥‥これ、に受け取ってもらっていいかな?」


 乗り換え地点まであと少しという所で、だいきは今日朝からずっと身に付けていたペンダントを外し、美緒へと渡した。


「これは‥‥‥?」

「これはね、僕の宝物なんだ。美緒、覚えてないかな?昔小さかった頃、美緒と翔が僕をいじめから助けてくれたあの日、美緒が僕にくれたんだ」

「‥‥‥あ!思い出した!」

 

 これは確か、だいきがいじめっ子ににいじめられていた時、私と翔がそのいじめっ子からだいきを助けた際に渡したものだ。

 あの時だいきはずっとずっーと泣き止まなくて、どうしたら泣き止むか考えて、その時咄嗟に思いついたのが私の首に付けていたペンダントだったんだ。そしたらだいき、嘘みたいにすぐ泣き止んだんだよね。ずっとそのペンダント見つめて、ロボットのようにずっと動かなかったよね。あの時は本当に焦ったよ。

 あぁ、思い出したよだいき。そんな昔の物取っておいてくれたんだね‥‥‥。


 美緒は心が温まっていくのを感じた。

 そして瞬間だいきへの愛情が爆発してしまい、美緒は勢いよく抱き付いた。


「好き!好き!」

「美緒……?どうしたの?」

「もう好き!大好き!」

「‥‥‥うん、僕もだよ」


 やっぱり、私だいきの事大好き!


「でも、なんで私に返すの‥‥‥?」


 私としてはずっとだいきに持っていて貰いたいけど‥‥‥。


「‥‥‥それは――――」


 だいきは若干目を泳がして答えようとしたが。


「あ、あのお客様、次のお客様が待っているので‥‥‥」

「「っ・・・す、すみません」」


 美緒とだいきは既に観覧車が回りきっている事に気が付いておらず、並んでいる客と職員にイチャイチャしている場面を見られてしまった。

 2人は赤面しながらいそいそと観覧車を出て、そのまま無言になってしまった。


「は、恥ずかしいね‥‥‥」

「はは、そうだね‥‥」


 うぅ~恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしいよこれ!だいきとイチャイチャしている所

見られちゃった!


「それじゃ、帰ろっか」

「うん‥‥‥」


 その瞬間、美緒は大きな羞恥心のせいで忘れてしまっていた。

 何故だいきがペンダントを返したのかを―――。

 あるいはここが彼女の分岐点だったのかもしれない。

 

 

 別れはもう既に終わっていたのだ。




 なんか嫌な予感がする。

 なんでだろう。理由はないけど、なんだかムズムズする。

 あの後だいきと翔と別れ、私はとても充実した気持ちで家にたどり着いた。2きりのデートでは無かったけど、本当に楽しかった。3人で色んな所に回って、久しぶりに心から楽しめた気がする。

 自分の病気が分かってから、私はこれから先一生心から笑える日は訪れないと思っていたけど、そんな事は無かった。

 だいきが隣にいるだけで、私の心は満たされた。心から笑えた。心がフワフワとしてどこか宙に浮いているような気持だった。死ぬ時も、こんな気持ちのまま死ねればいいのに。死ぬときは、だいきに手を握ってもらいながら死にたいな。そしたらきっと辛くないはず。


 だいきが居れば、きっと―――。


「ふふっ、そうだ。だいきにメールしよっと」


 思い出し笑いをしながら、私はだいきに今日の思い出話をしようとメールを送る。


「‥‥?あれ、いつもはすぐに既読付くのにな」


 お風呂に入ってるのかな?

 私は1時間後に再びメールを送った。けど、


「既読、付いてない‥‥‥?」


 私は何度もメールを送る。それでもだいきは応答しなかった。 

 ドクドクドクと嫌な音が脈打つ。


「出ない‥‥‥」


 だいきが電話に出ないなんて、今まで無かったのに‥‥‥。

 物凄く、嫌な予感がする。

 

 美緒の額には冷や汗が薄っすらと滲んだ。


「‥‥‥だいきの家に、行ってみよう」


 そんなに遠くないから、大丈夫。

 私は急いで玄関を飛び出し、走って約5分くらいの距離にあるだいきの家に向かった。


「はぁはぁはぁ、あのっだいきのお母さん!だいき居ますかっ?」

「あらどうしたの美緒ちゃん、そんなに汗かいて‥‥‥」

 

 全力疾走で走ってきたため、美緒は全身汗だくだ。


「あの!だいきは!」

「だいき?だいきならまだ帰ってないわよ?」

「ぇ」


 瞬間、美緒は走りだした。

 

 


 まるで、引っ張られるかのように。



 のあの森へ――――――――

 

 












「だいきっ!!!!!!」



―――最愛の人を、叫んで。


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