第7話 コンプレックスを刺激されました [ 5月10日(日)・更新 ]



「うん、おおきに。色々わからんことだらけで迷惑かけると思いますが、これからよろしゅうお願いします」


「はい、こちらこそ」


 さっきから代表して答えてくれているガイルは無表情だったが、尻尾がブンブン振れているので喜んでいるようだ。めちゃくちゃ分かりやすい。他の三人からも友好的な視線を感じる。


 緊張の初対面だったが、これからお世話になる人達と上手くやっていけそうだと、安心してホッと息をついた。


「皆、後は頼んだよ」


「はっ、お任せください!」


「じゃあシオン、また明日ね」


「明日は忙しくなりますからね。ゆっくりお休みください」


「はい。二人とも色々とおおきに。ありがとうございました」


 無駄に美形な魔王陛下と魔導師長は、キラキラオーラを振りまき、口々に気遣いの言葉を掛けてから部屋を出て行った。







 ガイルたちはこれから交代で警備に付くとのことで部屋から出て行き、部屋には二人の侍女が残った。


 柔らかな金の髪を背中で一つにまとめ、切れ長の碧眼が印象的なとびきりの美人が、紫音を見つめて優しく微笑む。


「シオン様、改めてご挨拶を。シオン様の専属侍女を務めさせていただくエルフ族のレティツィアです。わたくしのことはどうぞレティと、お呼びくださいませ。そして……」


「獣人族のエルサです、シオン様。お見知りおきください」


 続けて、紫音よりも僅かに低い背丈の、猫耳を持つ少女が挨拶してくれた。


「あなた様のお越しを魔族一同、心待ちに致しておりました。これからよろしくお願いいたしますわ」


 姿勢良く佇むレティツィアは背が高く、出るところは出て、絞まるところはキュッと絞まっているという、見惚れてしまうような完璧な女性美を持つ美形。

 その隣にいるのが、獣人族のエルサで、綺麗な毛並みの丸みを帯びた耳が、頭の横にチョコンと乗っている。

 新しい主人を、クリクリとした愛らしい瞳で好奇心いっぱいに見つめ、フサフサの手触りよさそうな尻尾がせわしなく揺らしている。どの仕草も、もうひたすらに可愛かった。


「うん、こちらこそよろしくです、レティさん、エルサさん。お世話になります。色々教えていただけると助かります」


「お任せくださいませ。私達は、交代でお側に控える事になっておりますので、いつでもお聞きください。それと、使用人に敬語は不要ですよ」


「ううぅっ……慣れてへんもんで。少ぉし時間をください」


「ふふふっ、承知致しましたわ。では、頑張って慣れてくださいませ」


「わ、分かった。そうします」


「はい。ではその前に、シオン様に与えられた各部屋のご案内だけ先にさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい」




 今居る部屋からは、廊下に出ずとも左右の壁にいくつかある扉から直接行ける。

 実際に、寝室やドレスルーム、専用の浴室やトイレを使い方なんかを説明しながら案内してくれた。他にも専属護衛や侍女たちの控え室まであるらしいが、そこは主人である紫音は立ち入り禁止だと言うことだった。


 改めてじっくり見て回って、各部屋に置かれた調度品を近くで見てみると、金銀細工で装飾されているのかきらびやかで、目に入るもの全てが高そうだった。一流ホテルのスイートルームより豪華絢爛なんじゃないかと思うくらい……行ったことないから想像なのだけれど。


 そして、ドレスルームには棚一面にいっぱいの色とりどりの新品のドレスの他に、当然のことながら全身が映る大きな鏡が設置してあった。




 実は、紫音はこの世界に来てからまだ、自分の姿を確認していない。今の器は魔導師長達が用意したもので、魂だけでこの世界に召喚されたと聞かされている。

  つまり、新しい自分はもしかして、今までと容姿も変わったかもしれない……そう、思ったのだ。


 だって、おかしいだろう? 家族くらいしか可愛いと言ってくれなかった元の顔のままなら、あんなに美形の魔王陛下が熱烈に口説いて来ないと思う。


 救済の魔女としてだけでなく、魔王陛下の花嫁候補としても召喚したくらいだ……少しは彼好みに可愛く作ったんじゃなかろうかと、ちょっぴり期待しながらワクワクして鏡を覗き込んでみたのだが……残念ながらそうは都合よくならなかった。



 ――鏡に映ったのは、平凡で見慣れた自分の姿だったのだ。



「まあ紫音様、どうなさいましたの?」


 鏡を見た後の紫音の落ち込み具合に驚いて、レティツィアは心配気に声をかけた。


「いや、なんでもあらへんのです」


「でも……」


「ええんです。なんや、自分勝手に落ち込んでもうただけやねん……アホみたいやろ。アハハハ……ハァ」


「シ、シオン様!? どうぞ、ご遠慮なく、私達にお話くださいませ。何がそんなに貴女様を悲しくさせておりますの?」


「いや、めっちゃくだらないことやねん。でも、その……改めて見ると、ウチってホンマ、可愛ないなぁって思ってなっ」



 今まであった魔族は全員、もれなく美形だった。その中で紫音のこの容姿は平凡過ぎる。


 魔術で魂の器を作成してくれたようだが、どうせならちょっぴりでいいので、こっち基準の美にしてほしかったものだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救済の魔女として魔王様に召喚されました~憧れのモフ可愛い幻獣達と一緒に楽しく暮らします!~【連載版】 飛鳥井 真理 @asukai_mari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ