第6話 紹介されました
「いやいやっ、大丈夫やからっ。素敵な部屋でびっくりしてただけやから! ホンマおおきにな、魔王さん」
「気に入ってくれて良かったよ。でも、シ・オ・ン~? 魔王さんじゃ無いでしょ。ほら、俺の
紫音の手を取って真っ直ぐ視線を合わせ、至近距離から瞳を覗き込まれる。
金の瞳は可笑しそうに、柔らかく眇められ、その口元は楽しげに小さくつり上げられていた。
そんないたずらっ子のような表情も、彼がすると魅了される。
「あぅっ。えっと、アル……さん?」
「もう、恥ずかしがりやさんだなぁ、シオンは。今日はそれで勘弁してあげる」
「……すんません」
「ふふっ、いいよ」
仕方ないなと笑いながら、紫音の髪をくしゃっと撫でて許してくれた。
異性と触れ合うことに慣れていない日本人からすると、こうしたスキンシップは気恥ずかしくてしょうがない。
ましてや相手は謎の色気をちょいちょい発動させてくる、規格外の美形である。恋愛経験皆無な紫音が慣れる日は来るのだろうか……?
……しかし危なかった。部屋のことはハッキリと断っていなかったら、もっと派手で広いものを与えられるところだった。
魔王陛下の救済の魔女に対する待遇が破格過ぎて、ちょっと怖い。
(うん、本当に素敵な部屋なんや……見学するだけならベルサイユ宮殿みたいやし、お姫様気分も味わえるしでめっちゃ嬉しいねんけど。ただなぁ、そこに住むとなるとキツイわ。キラキラ、チカチカし過ぎて目に痛いと言うか? まあでも、その内慣れる……と、ええんやけどなぁ)
「あ、そうだ。ついでにシオン付きの専用メイドと護衛の騎士を紹介しておくね」
にこにこ機嫌よく微笑みながら、魔王陛下は別室に控えていた数人に部屋に入るよう合図を出した……らしい。
その呼び掛けは、外まで聞こえるような声量でもなかったし、呼び鈴を鳴らしたわけでもない。
どうやって外にいる彼らに知らせたのか、紫音にはさっぱり分からなかった。もしかして、何か魔法でも使ったのだろうか?
すぐに幾人かの男女が部屋に入って来て、最後のひとりが出入口のドアをパタンと閉めた。この扉は三mくらいの高さがあって幅も広く重量もありそうなのに、軽々と開閉している。随分と力持ちだ。
こちらに向かって歩いてくると、彼らの正面にズラリと一列に並んだ。
種族が違うのか、随分と大きさが違う男女が五人だった。その中でも特に目立っていたのは、人間とは明らかに違う形の、動物のような耳や尻尾などが一部分だけ生えている人と、立派な毛皮に覆われた人……。
それはまるで、ファンタジー小説に出てくる獣人族のような姿で、それぞれ色や形も微妙に違った。いずれにせよ、五人ともタイプは違うが、美形であることにはかわりがなかった。
軍服を着た三人の男性達は、みんな軽く二mを越える大きな体をしていたが、緊張しているのか、尻尾や耳がピンっと立っている人もいて可愛かった。
魔王陛下や魔導師長は、美形が過ぎることを除けば紫音と変わらない外見だったため、特に意識していなかったが、実際にこうしてを見ると、本当に異世界に来てしまったんだなぁと思う。
……しかしまさか、この人達が全員、側仕えとか言わないよね大丈夫だよねと戦々恐々としながら、魔王陛下説明を待った。
「彼らはこれからシオンの専属として仕える属者たちだ。左から、護衛騎士筆頭のガイルと、ミケーレ、バルド。侍女のレティツィアとエルサだ。お前たち、ご挨拶を」
何と全員そうらしい……魔王国における救世の魔女の扱い、マジで半端なかった。
早速、魔王陛下の言葉を受けて、腰に剣を佩き、漆黒に銀の縁取りがあるかっちりとした詰襟の軍服を着た人が一歩前に出てきた。
「筆頭護衛騎士のガイルと申します。我ら一同、魔女様のお側でお仕えする栄誉を魔王陛下より拝命いたしました。これより先、魔女様の剣となり盾となって、命の限り御身をお守りし、お仕えすることを誓います」
大きな耳と長い尻尾を生やしたその人は、片膝をついて頭を下げた。彼に続いて残りの者達も、続けて同じように名乗り、誓約を述べていく。
普通の女子中学生だった紫音には、専属の使用人なんて異次元のことのようで現実味がないが、どうやら逃避してもいられないようだ。
護衛騎士三人と侍女二人の挨拶が終わり、紫音に注目が集まった。
(こ、この流れで挨拶せなあかんとか嫌すぎる……大人で畏まった受け答えなんか出来へんし、どないしよう……はあぁ、緊張するわぁ)
挨拶を済ませた五人は、片膝をつき頭を下げた姿勢のままピタリとも動かない。
ここは、紫音のお言葉待ちなんだろう。きっと彼女が話しかけるまで彼らはこの姿勢を崩さない……覚悟を決めた。
「はじめまして、ウチは紫音です。皆さん、お世話になります。堅苦しいのは苦手やから、できればウチの事は魔女様やのうて、紫音と名前で呼んでくれると嬉しいです。それからもう、立って欲しいです」
いつまでも彼らを跪かせておくわけにはいかない。申し訳なさ過ぎて心臓に悪い。
「はっ、しかし……」
その言葉を受けて、筆頭騎士のガイルが魔王陛下にちらりと視線を向けて様子を伺う。
「彼女の望み通りにして」
「承りました……シオン様」
陛下の了承が得られたので、早速立ち上がると、名前を呼んで返事をしてくれた。やっぱり魔女様と呼ばれるよりもこっちの方がいい。
紫音が魔女と聞いて真っ先に連想したのは、お伽噺話に出てくる意地悪で年老いた老婆の姿だったので、ちょっぴり嫌だったのだ。
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