ゾット帝国YouTube rジュンペイがゆく!〜S、引退〜

浜川雄平を救いたい

禁断の森へ/一難去ってまた一難

オレと幼馴染のネロは禁断の森の奥、獣道で三匹の狼の様な魔物に追いかけられていた。

 鼓動は高鳴り、冷や汗を背中に掻き、息を切らして魔物に振り返る。

 奴らは身体中から黒いオーラを放ち、真っ赤な眼を光らせている。

足元がかなり悪く、大雨の後なので大小の水溜りが出来ている。

 オレは前方不注意で水溜りを踏み、派手な水飛沫が飛び散る。おかげでスニーカーと靴下が濡れてしまった。


 その時、真ん中の魔物が急に立ち止り砂煙を上げ、顔を真っ直ぐ上げて吠え始めた。


 あいつ何しやがった?背筋が凍り、頬に冷や汗が伝った。

オレはいち早くこの場から立ち去るため、衣服が濡れるのを構わず走る。

 こうなりゃ汚れる心配をしてる場合じゃねぇ。

 獣道の脇から幾つもの赤い光がこちらを見つめている。

 悪い予感が的中するかのように、樹の影からぞろぞろと連中の仲間が出てきた。

 どいつも涎を垂らし、オレ達に鋭い牙を向けて威嚇している。

 腹が空いているのか、苛立ったように足を踏み鳴らし、今にも飛び掛かってきそうだ。


 その時、獣道に転がっていた小石につまずき、片足が派手に上がった。

「どわっ」

オレは間抜けな声を出し、身体がぬかるんだ地面に倒れそうになる。


 その時、隣を走っていたネロが右手を伸ばしてオレの胸を支えてくれた。

 美形でファッションに気を使う彼だが、ハットとジャケットは砂埃で汚れ、指輪やブレスレットに泥が付いている。

「わりぃな」

 彼は何も言わずオレの胸からそっと手を離し、その場から一歩も動かず魔物の様子を窺っている。

デジタル腕時計のボタンを弄り、メガネのレンズに魔物の立体映像を表示する。

 オレは頭の後ろで手を組んで、様子を黙って見ていた。

彼は首を横に振り、

「ダメだ。こいつらの正体がわからない」

 こちらに振り向いて簡潔に答えた。


 オレは舌打ちして、斜め掛けの鞘に収めた剣の柄に手をかけ、魔物に攻撃しようとするが、ネロに制される。

「よせ。下手に動いてこいつらを刺激するな。ミサの援護を待とう」

 彼は掌をオレに向けて警告する。

「ミサは今ホバーボードでのんびり観光してるんじゃねぇのか?あんな奴を待ってられるかよ」

オレは苛立ちを隠せず、剣を握りしめた。

 魔物達は、すぐに襲おうとはせず、遠くでオラたちの様子を窺っている。

 その時、ネロの左耳に装着しているインカムにちょうどミサの無線が入る。

「どうする? 囲まれちゃったわよ?」

呑気な声でそう言って無線は切られた。全く、適当な奴だ。

そうしてる間にも魔物たちはじりじりと距離を縮めている。オレは魔物を睨み据え、剣に手をかける。

「こうなりゃ戦うしかねぇだろ」

 ネロは呆れたように首を横に振る。

「この数を相手にするつもりか?まともに戦ってもキリがない。こいつでまとめて片付けるぞ」

 ジャケットのポケットから、銀色の小さな球形を二つ取り出した。

後ろに手を回して、それをオレに手渡す。

「なんだよ、これ」

「親父お手製の小型兵器だ。手前の水溜りで奴らを感電させる。ある程度は倒せるだろ。」

 ネロは手前の水溜りを見つめながら、左手をポケットに突っ込んで球を放り投げて遊んでいる。

「はあ?こんな小さいので感電すんのかよ?」

 周りを見渡せば、確かにオレたちの周りに大小の水溜りがある。

「ボクを信じろ。襲われて死ぬよりかマシだろ?」

「……」


「そうだな。お前を信じるしかねぇ」

ネロは頷き、こちらに笑顔を見せる。


「奴らが水溜りの上を歩いたら、そいつを投げるんだ、いいな?」


「ああ。派手にやろうぜ」

奴らが水溜りの上を歩くまで、じっと待った。唾を飲み込み、ごくりと喉を鳴らす。冷や汗が頬を伝う。

 後前の敵を気にしながら、ネロはタイミングを窺っている。

 どうやら、ギリギリまで獲物を引き付けるつもりらしい。



「今だ!」

 ネロが力強く叫んだ。


「ほらよっ! 大人しくしやがれ!」

 水溜りを歩く魔物に球を放り投げた。

水面に落ちた球は強烈な青白い電撃を放ち、魔物たちを襲う。

 オレはあまりの眩い光に、思わず「うっ」と声を漏らす。顔の前で光を手で遮り、片目を瞑る。


「グォォォォ!」

 咆哮を上げ、魔物の身体は黒こげになり黒煙を上げ、ばたばたと横に倒れてゆく。

 電撃を食らわなかった魔物は、一瞬何が起こったか理解できず、キョロキョロと目を動かす。

 数秒が経ち、ほとんどの魔物は仲間の死体を見つめて悲しい眼をして後退り、ぞろぞろと樹の影に消えてゆく。


脱力感とともにため息を零す。振り返って、ネロの肩に手を置く。

「なんとかなったな。お前の親父の発明品、たまには使えんだな」

 彼の父親は、ゾット帝国の科学者だ。

 よく変な物を発明しては、騎士団と親衛隊に提供している。

 秘密基地で親父の発明品を弄っては、武器を改良するのが趣味とかなんとか。


「お前は何も考えずに突っ走るところがある。僕は無駄な戦いは避けたいんだ。」

ネロは呆れたような目つきでオレを見る。オレは頭を掻いた。

「悪かったな、何も考えてなくて。今回はお前に助けられたな」


「ねぇ。こんなとこにラウル古代遺跡があるわけ? 見たとこ森が広がってるだけで何もないじゃない」

再びミサから無線が入る。


 お前は呑気でいいよな。オレ達は散々な目に遭ったってのに。

「あいつらも諦めてくれたし、さっさとこんなとこ離れようぜ」

 歩き出した時、ネロは手でオレを制す。

「待て、奴らの様子が変だ。」

「今度はなんだよ」

 オレは舌打ちして、立ち去らずに残った魔物たちを見回す。

 「こいつら、何しようってんだ?」


 奴らはなんと仲間の死体を食い始めた。

他の個体と取り合いをしながら死体を貪り、生々しい咀嚼音が聞こえる。


 信じられない光景を目の当たりにして、思わず後退る。

「ど、どうなってんだよ」

気づけば手に変な汗をかいていた。


 ネロが制した手をゆっくりと下す。

「さあな。嫌な予感がする」

緊張した声音で、腰に巻いた拳銃に手をかける。


 一匹が貪るのを止めて顔を上げ、低く唸りながらオレたちを見ている。

 その魔物は低く唸りながら足を踏み鳴らし、なんと姿を変え始めた。


皮膚が解けてメタリックの骨格が露わになる。狼のような爪がさらに鋭くなり、背中にキャノン砲が現れた。

 冷たい銀色になった魔物の背中に様々な武器が現れる。

 勝ち誇った様に口許を綻ばせ、紅い目が鋭く光り、次々に背中に装備した武器を発射してくる。

瞳に飛んでくる銃弾が映り、オレは死を覚悟した。

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