3-5 checking still yet
「こちっこちらは、若菜さんと、わたしから、です。柳田さんへ、感謝の気持ちと、えと、『サプライズ返し』とを、したくて。えと、ちょっと若菜さんに、頑張っていただきました」
ライムグリーンのジレ型ベストとスーツパンツ。
白の
ミモザイエローのスカーフタイと
そして、ミモザイエローのワンピース。
ふわり柔らかく軽そうな、全体的に丸みを帯びたデザイン。
スカート部分は腰周りのみの飾り仕様、その中はライムグリーンのかぼちゃ様ショートパンツで、機能性が高い。
寒くないよう、長袖のデザインに変更されているものの、善一はこのワンピースドレスに見覚えがあった。
「これ、あの時描いてた……」
「は、はい、そうです」
紙袋を床に置き、両手でペア衣装を持ち上げる善一。ポカリと口を開けたまま、蜜葉を窺う。
「これをあの時、柳田さんに、
俯きがちに言葉を忙しく並べる蜜葉へ、若菜はそっと背を叩いた。若菜の微笑に、ホッと一呼吸できた蜜葉。つられて口角が柔らかく上向く。
「あの、なのでその、そういう感謝も込めまして、ええと」
善一が声をかけるに至った、きっかけのデザイン。
YOSSY the CLOWNのパフォーマンスから沸き起こった創作アイディアで、無我夢中で描いたあの男女ペアのデザイン。
善一も蜜葉も、忘れられるはずのない一枚で。
「そ、っか。うん。びっくりした、スゴく、とっても」
両手の衣装へ
「…………」
左肘に二着の衣装を引っ掛け、その右手の長い五指が鼻から下を覆う。
全面には女性陣と
照れ恥じらう顔面など、この場の誰にも見せられたものではない──善一は慌てた。慌てた分だけしかし反して、耳が赤く染まってしまう。
「あ」
片眉を上げた若菜は、俯いたまま微動だにしなくなった善一に、
編んだネクタイあげたときの柳田さんと、照れ方がそっくりだ──。
「ホントに双子なんだ」
「え?」
小さくひとりごちた言葉を、しっかり蜜葉に聴かれてしまった。
「いっ、な、んでもない」
慌てて視線を遠くへやるも、丁度そこには良二が居た。YOSSY the CLOWNの背後からチラチラと見えている長身に、若菜はぞわわと背筋が波打ち、勝手に頬を染める。
「あの、やな、柳田さん」
「え──あっ、いや『YOSSYさんだよSignorina』」
まさかの『切り換えミス』に、目を丸くするサムとエニー。ようやく顔を上げた善一は、ギリギリの間隔でYOSSY the CLOWNとしての笑みを貼る。
「これの具現化と、お引き渡しが、とっておきサプライズ、でしたので、これにて、わたしの挑戦は、一旦おしまいです」
緊張した面持ちながらも、ニコリ笑んでいる蜜葉。胸をピンと張った姿は、背を丸めて黙々と描き殴っていた少女とは思えないほどまでに、輝かしい。
蜜葉へ耳を傾ける、五人。
「わたしは、わたしの全力以上を、お二人にも柳田さんにも、お渡ししました。だから、今後のわたしの、処遇を、お、お二人で、お決めください」
サムとエニーへ向き直る蜜葉。くるりとした深い灰緑色の瞳がハテナと共に蜜葉へ上向く。
「ボクとエニーで?」
「は、はいっ。後悔がない今なら、ど、どんな評価も、受け止められる、気がしますから、ぜひに」
「蜜葉……」
サムとエニーは見合い、目配せの後にYOSSY the CLOWNを振り返る。結論の出ている双子を見たYOSSY the CLOWNは、足元の紙袋へ衣装をしまい、わざと「あっ」と思い付いたような声を上げた。
「じゃあ、初舞台踏んでみよっか」
右人指し指がピンと立つ。
ハテナを浮かべる蜜葉と若菜。
もっちりとした頬に笑みを刻むサムとエニー。
「丁度明日は祝日だし、路上パフォーマンスやろうかなーって、もともと話はしてたんだ。路上には、チケットとか席とか特に無いしね」
そうして、いつもの調子で笑みを貼っているYOSSY the CLOWNと、その背後で赤茶けた頭髪をガシガシと掻く良二。するりと善一の背側から、事務机へとかかとを擦る。
「ターミナル駅の南口に小さい広場があるんだけど、蜜葉知ってる?」
「わ、わかります」
訊ねてきたサムへ、蜜葉はガクガクと
忘れられるわけもない。YOSSY the CLOWNと初めて出逢った、あの広場のことなのだから。
「ヨッシーが調べてくれたんだけど、そこ特に許可とか要らないらしいんだ」
「ストリートミュージシャン、とか、ダンサー、似顔絵師とか、いつも、居るんだよ」
「祝日ならより人も集まりやすいし、二人が最初のパフォーマンスをやってみるには、あの場所はうってつけかなと思って」
YOSSY the CLOWNが双子から言葉を引き継ぎ、説明に至る。
「ガイコクジンのコドモ、が、人目を惹く、
「うん。蜜葉のデザイン着て、ボクたちが
エニーとサムが言葉にして初めて、蜜葉は『大多数の他人に見られる』現実味を知った。
緊張しないわけがない。規模の不明な重圧に、果たして耐えられるのだろうか──胃のあたりがジク、と痛む。
「これが、作品が世に出る、ってこと」
以前のようなネガティブな感情が、すっかり無いわけではない。
しかし、それすらも
「──怖い?」
エニーに問われ、見つめられ。蜜葉は生唾を呑んで、取り繕わない本音を紡ぐ。
「正直、怖いも、楽しみも、同居してます。でも、今感じてる怖さ、なんて、お二人からの、評価を戴くまでに比べたら、なんてこと、ありませんよ」
きゅう、と胸の真ん中を握り締めると、頬の緊張がふにゃり、と弛んだ。つられてエニーも柔く笑む。
「ダイジョブ。無駄にしない、エニーもサムも」
「うん。今度はボクたちが、蜜葉のデザインがどんなに素敵なのかってことを、たくさんの人に伝える番だ」
小さな二人の大きな言葉に支えられ、蜜葉は独りきりではない安心感にくるまれる。
若菜へ視線を合わせ、すると若菜は嬉しそうに手を挙げた。
「はいっ! 二人のパフォーマンス、私も観に行きたいですっ」
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