2-3 CLOWN smiles meaningfully
同日木曜日、フランス──某所アパルトマン。
愛用のノートPCの画面に向かって
「初めまして」の挨拶を終えて、画面に映る一人の男性へと口を開いた。
「実に熱心な
文字に起こせそうなアッハッハを響かせるYOSSY the CLOWN。しかしそこに嫌味は無い。
『あぁ、すみません。
「いやいや、マネージャーはむしろそのくらいじゃないと。『アーティストへより良い仕事を廻すんだ』という、気迫と熱意が伝わりましたから。だからこそ僕はお引き受けしたわけですよ、
初夏の青空を思わせる、『爽やか』を体現したかのような男性──秀介は、照れ困ったようにその口元に左拳を持っていった。
YOSSY the CLOWNは、ヨーロッパで有名になりつつある画家・
「それで、さっそく打ち合わせですが──」
四〇分間ほど、
同年代の二人。厳密には、
『じゃあ、そのようにこちらも作品作りに取りかかります』
「
『はい、なんでしょう』
「作品を一点、購入させていただきたいと思ってます」
『えっ、ほんとですか。ありがとうございます!』
そうして、形のよい切れ長の目を丸くする
『光栄だなぁ、あの有名な世界のYOSSY the CLOWNに、私の作品を手にしていただけるなんて』
「フフッ、僕も楽しみです」
『なにかお好みのもの、ございましたか』
「ええと、失礼かもしれないし贅沢な話ではありますが、よろしければ、作品に入れ込んだ熱情なんかを拝聴しながら選ばせて戴けたら、極上に嬉しいかな、なんて」
顎を引き、珍しく耳を染めるYOSSY the CLOWN。
そこに人間味を見て取った
『はは、構いませんよ。このくらいの時間帯でよければ、いつでもYOSSYさんのために、こうしてPCの前に座ってます』
「じゃあ早速、明後日はいかがですか」
『ええ、もちろん』
光の速さで
「ほ、ホントに?」
『はい。こんな機会、私にとっても一度あるかないかでしょうし。ラッキーは逃したくないのが昔からの性分で』
「ラッキーは逃したくない、か。フフ、確かにそうですね」
『でしょう? よろしかったら、お選びいただいた作品は差し上げますよ』
「それはダメです」
前のめりになるように腰を浮かせ、真顔を作るYOSSY the CLOWN。柔らかく笑んでいた
「作品のどれもこれもが、Signoreが心血を注ぎ、丹精を込めたかけがえのない
バキリ、
「僕が金銭を支払うのは、Signoreの作品に対する姿勢と熱意に対してです。たとえ
YOSSY the CLOWNの気迫と主張に、呆気に取られる
「あなたはその金を、次に控えているであろう作品作りに是非とも生かして。もしそれがしっくりこないなら、その金で一番美味いベルギーワッフルでも召し上がってきてください。Signoreご自身のために」
半腰のYOSSY the CLOWNは、スゥと一呼吸吸い込んでから、再び椅子へ腰を落とした。
二〇秒ほど経って、
『あなたは、不思議な人だ』
寂しそうに笑んでから、
『仰るとおりだ、YOSSYさん。そういう大切なことすら忘れてしまうくらい、俺は自分自身を見失っていた。そりゃ、描けないわけだ』
「……描けてなかったんですか」
『ちょっとね。スランプってやつですかね、普段ならどうでもいいと思える一言に、数か月間捕らわれていたんです』
「でも、もうSignoreはそこから自由になった。一分前と面持ちが違う」
顔を見合う二人。YOSSY the CLOWNが薄く笑むと、
『あなたは本当に変わってる。俺の
まるであの頃の彼女のように、と付け加えようかを迷って、
『YOSSYさん、胸のつかえが取れました。あなたは
「Signoreがそう仰るなら、僕はきっと何にでもなれます」
チャキリ、と
『そうだ。先に送り先を訊いておいてもいいですか? すぐにお送りできるように』
「ええ、ありがとうございます」
『フランスのどちらに?』
「あぁ、すみません。日本にお願いできますか」
『日本? あれ、ご自宅は日本なんです?』
「拠点を移すために引っ越すんですよ、来週末。だから実は、こんなにダンボールまみれで」
ノートPCを持ち上げた善一は、ぐるりと部屋の奥を映した。至るところで山積みされているダンボール。しかし整頓してあって、なんとも几帳面な片付けられ方に、
「僕も最近、夢にきちんと向き合おうと思えてきたんです。自分の価値を、最も大切な人に認めてもらうことが、僕の夢の
『じゃあその恐怖心もひっくるめて、共に向き合いましょう。きっと私たちは、既に夢に両の手を掛けているんだ』
苦難も夢への付加価値である──
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