冒険者ギルドの裏表

@yw9

Ep.01 : 冒険者の等級

「おい、あれ、あっちのテーブル見てみろよ」

「あ?どれだよ。あの獣人のところか?」

「ちげーよ。その右、フード姿が一人で飲んでんだろ」

「おうおう、居るな。で、それがどうしたんだよ。ああいうボッチ、別に珍しくもないぜ」

「見た目だけならな。しかし金章ならどうよ」

「はあ?金って、金か?」

「金は金だろうよ。ちらっと見えただけだが間違いねえ。しかも女だった」

「マジかよ。女でソロで金章冒険者ってか。……おっかねえな」

「わかる。怖えよな」

「ちょっと胸触ったら腕が落とされたり」

「声掛けただけで喉を潰されたり」

『…………』

「にしても、何しに来たんだろうな?」

「こんな何もねえ田舎町なのにな。銀章が一人いたか?」

「もう何年も前に都市ん方へ移ったよ。今じゃ最高が銅章だ」

「俺ら鉄章の一つ上、とは言っても引退までに上がれるかどうか」

「まあ、冒険者の等級ってのは他の町で働くときに見られるくらいだ。この町で働いてる限りは鉄章で十分だろうさ」

「それもそうだな。万年鉄章に乾杯!」

「乾杯!」

「……何の話だったか?」

「あー、銀とか銅とか?」

「そういやよ。鉄より銅や銀の方が上ってどういうことだ?銅貨銀貨より俺の剣の方が硬ーぞ」

「そりゃあ銅貨はただの銅だからな。銅章の銅ってブロンズの銅だろ?」

「ブロンズぅ?あんなおもちゃの剣よりで戦える気がしねーな」

「そりゃあ、お前が脳筋だからさ。魔法を使えるやつには鉄より銅の方がいいんだとよ」

「そうなのか?」

「マナの通りがいいって、エルフの兄ちゃんが言ってたぞ。で、同じように銀に色々混ざったミスリル、金でオリハルコンって順番だな」

「おう、聞いたことあるぜ。見たことはないけどな」

「俺もだ」

『ガハハハハ』



「お待たせしました、お客様」

「いえ。それで、あの人は?」

「その……、とても言いづらいのですが……」

「はい」

「……ギルド長は逃げました」

「は?」

「部屋には誰もおらず、私物だけ無くなっておりました。そして、手紙が一通、机の上に」

「手紙にはなんと!?」

「こちら、ご自身の目でご確認下さい」


『まず、まだ幼かった君に無責任な言葉をかけた非礼を詫びたい。金章冒険者になれたら結婚するなんて。当時は僕も若く、浅慮からあのような冗談を口にしてしまったんだ。

 もう何度もしたこの話では、君が納得していないことは判っている。だから、ここからはまだ話していなかった内容と、僕のこれからについて書こう。

 僕には愛し合っている男性がいる。君の知らない人だ。そして今、僕の愛を受け入れてくれた彼のお腹には二人の愛の結晶が宿っている。話には聞いていたけど、神の御力は肉体なんて現実を軽々と凌駕するんだね。神秘的だ。

 僕は彼を裏切れない。もし自分の命と択一を迫られても、僕はこの命を捧げるよ。だから、僕は君といることができないんだ。君がこの手紙を読んでいる頃には、既に僕はギルドで秘密裏に保護されていることだろう。書類上は既に死んだことになっているはずだから、残念ながら書類上でも君との婚姻は不可能になったわけだ。その代わりと言っては何だけど、僕が置いて行ったものは全て君にあげよう。例えば金銭の大半や、貴重な道具類があるはずだ。受け取ったものをどうするかは君に任せる。

 あと、ギルド長の地位も、良かったら君にあげるよ。推薦したら本部も快くOKを出してくれたんだ。冒険者としては現役から引退することになるだろうけど、元々、僕と結婚したら引退すると言っていたんだし、大丈夫だよね。

 それじゃあ元気で。お互い幸せになろう。』


「……教えてください」

「ナンデショウカ?」

「ギルド職員には引退した冒険者が多いと聞きますが、今ここで私が暴れたら抑えられますか?」

「や、やめてくださいお願いします」

「だったらどうしましょう?この破壊衝動」

「ででで、でしたらちょうど良い討伐クエストがあります」

「ギルド本部ですか?」

「ちちちがいますよハハハ冗談がお上手ですねハハハ」

「……」

「ひっ、飛竜がはぐれて生態系がアレなので狩猟して依頼を支社まで出そうかと思っていたのですがあなた様に受けていただきたくくく」

「飛竜ですか。……悪くないですね」

「あ、ありがとうござぁーす」

「それで、討伐の証拠に何が必要ですか?爪?角?目?首?それとも股間に一物でもあれば切り落として持って帰りましょうか???」

「いや、あの、別にあそこは……は?いる?需要あるの?本当に?個体識別もできるからちょうどいい?正気か?」

「なにコソコソ話してるの?」

「いえっ、なんでもありません!」

「それで?」

「もしよろしければ、可能だったらでいいんですが、無理だったら爪でも角でもいいんで、もしイけたら股間の棒をお持ち帰りいただけますでしょうか」

「わかりました。……でも、手が滑ってぐちゃぐちゃに潰しちゃうかもしれないので、もしそうなったらごめんなさい」

「えーっと、はい、大丈夫です。もう何なら玉とか潰しちゃいましょう」

「ふふ、それも楽しそうですね。うふふふふふふふふ」

「あはははははははは」

「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃいませ! ……あのー、そっちは出口ではなくただの壁なんですが……」



「……俺、冒険者と結婚するとしても鉄以下がいいわ」

「俺はもう、冒険者と結婚無理だわ」

「金章まで上がれば只の蹴りで石壁に穴が開くらしいぜ」

「飛竜の股間切り落とせるらしいぜ」

「おいやめろ、ヒュンってするだろうが」



「みんな!あの方が帰ってくるまでに、あの方がギルド長になりたくなるプランを練るわよ!!」

『ウッス!!!』

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