第一一〇七回 ウメチカ戦の醍醐味だね。


 ――再び会うための遠い約束が今、この場で果たされる。やはりそうだったの。



 この度も例外ではなく、ドラマが描かれたのだ。


 美千留のアバターのお隣にいるアバターは、やはりあの子……と思った瞬間、ナイフが掠めた。僕のアバター『チカ』のコスチュームの肩を。それから髪も少し……


「やっぱり千佳ちかだ。健在だね、美千留みちるの言ってた通り」


 と、その子は言う。アバターを通して懐かしき言葉。


 僕は感じる。裸になった心で、繋がる記憶の糸と重なる面影。遠いあの日、カンちゃんと一緒に、僕が初めて経験したテレビゲーム。……そうだった。サバイバルゲームだ。


 僕は解いた、変身を。そして大変身をする。魔法少女からミリタリースタイルへと。ほぼカンちゃんと同じスタイル。枯葉色が主な迷彩色だ。魔法少女が得意とする光線技は使えないけど、機動力を駆使する戦法。僕は接近戦に挑んだ。……あくまで互角。


 と呟くカンちゃん。そして「やっぱり千佳ね、分が悪くても互角なスタイルを選ぶ」


 と、その子。……ようちゃんが笑みを見せた。僕の心は躍った。それは自ずと、


「それはどうかな? 寧ろこっちが専門だったりするよ。陽ちゃんと同じだね」


 と、いう言葉を出現させた。初のVRでの操作だけど、僕はコントローラよりも、こちらの方が操り易くなっていた。下着で喩えるなら、着けてない程のフィット感。


 そして「陽ちゃん」と呼んでいるこの子は、湊野みなとの陽子ようこという名前。僕に初めてのゲームを体験させてくれた子だ。保育所から小学二年生まで、カンちゃんと一緒に遊んだ。


 同じアパートに住んでいた子。


 お隣の銭湯にも一緒に通っていた。一緒に入っていた仲だった。


 まるで姉妹のように。そしてゲームは、拾ってきたもの。近くにある廃品置き場にあったものだ。ソフトは装填されていたもの。起動すれば意図も簡単に作動した。早速プレーしたことが始まりだった。その内容はサバイバル。生き残るために戦うゲームだった。


 今僕は、その時の感覚を思い出していた。身体に沸々と、脈打つように……



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