第一一〇三回 胸中を察した時、千佳は。


 ――梨花りかが差し出した鏡。僕を映していた。そういう意味だったの、拳骨の意味。



 すると、驚愕するカンちゃん。スッと指さしながら、


「えっ、え? 千佳ちかちゃんが二人?」って、僕と梨花はもう慣れているけど、ちゃんと説明も込みで僕と梨花の関係を理解してもらう。それよりも今は、カンちゃんのお願いとは何か? それを聞き出すことが先決だ。……漸く落ち着きを取り戻したカンちゃん。


 夏は炭酸の刺激がちょうど良かった。


 そういえば……「初めてじゃなかったね、千佳ちゃんと梨花ちゃんが一緒にいるの。ウメチカ戦で、あんだけ盛り上げていたから。バラード調のテーマ曲、梨花ちゃんが歌ってたね、とても素敵だった」と、カンちゃんの記憶は蘇って、第一回のウメチカ戦だった。


「ところでカンちゃん、僕にお願いって何?」


 と、問う。単刀直入な程ストレートに。すると、そのお願いとは……


「この度のウメチカ戦だけど、ウチとコンビ組んでくれへんかな? どうしても対戦したい相手がおるから」と、カンちゃんは言った。切羽詰まった表情で。動く僕の心。心の動作は言葉を誘った。質問系の言葉を……「相手は強いの? 準決勝まで運ぶ程」と。


「キングキングスの千佳ちゃんでないと、辿り着けない程」


 と、返ってきた言葉。相手が誰かとは、僕の口から質問はできなかった。そこで思い出されるのは、僕が美千留みちると対戦したこと。実は、その対戦こそが、心に残ったもの。


 其々の対戦も宝物だったけど、一番に残ったものはそれ。


 カンちゃんの表情には、その頃の僕が重なって見えたの。……だから、


「やるよ。カンちゃんと一緒に、優勝目指すよ」と、僕は声高らかに宣言した。


 パッと明るくなったカンちゃんの顔。女の僕から見ても、可愛いけど、カンちゃんは男の子。氏名は、代々木よよぎ勘一かんいちという。幸いにして太郎たろう君は、まだカンちゃんを女の子と思っている。でも、謎は残る……カンちゃんが対戦したい相手とは、いったい誰なのか?


 僕の知っている人かもしれないけど。そう思っている間も刻一刻と、時は迫りくる。



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