第一一〇二回 風雲を誘う白いパーカー。


 ――平日の待ち合わせ。僕らは向かう、カルテットになって指定された場所へ。



 帰り道から一緒。つまり学園の正門を出るところから。もっと遡って教室を出るところから。僕はまず梨花りかと。それから可奈かなと。太郎たろう君も一緒に合流していた。並んで歩く。


 来た電車に乗る。


 今一度思う。僕はこの度のウメチカ戦に参戦することを考えていなかった。子供たちと静かに、ただ過ごそうとしていた。でも、どうだろう? この帰り道で心はもう、騒ぐ血に身を任せようとしていた。何でかワクワクしている、この待ち合わせに……


 そして辿り着く。お空はまだ青く爽やかな風。


 最寄りの駅を降りると、ドラックストアまで僅かな距離。その途中には太郎君のお家と可奈のお家があり、そのまま通過する。四人とも、その待ち合わせ場所に向かったの。


 時間は午後四時には至らず、まだ十五分程の余裕がある。


 ……でも、いたの。白いパーカーを着た子。そこから伸びる、ピンクの短パン。身長は同じくらい。なら、小柄な方? 同じ年齢なら。僕は百五十センチ満たないから。


 思えば、僕の、一番最初の対戦相手になる筈の子だった。


 その時に交換したものだ、メールアドレス。面影なら、少しばかりは残っている。僕は歩み寄る。彼女……ではなく彼の傍へ。恐らく僕だけが知っている、一人称が『ウチ』の男の娘。それと共に蘇る遠い日の記憶。りんと仲良く遊んでいた時の、もう一人の子だ。


 小学二年生の頃の記憶……


 その子のことを、カンちゃんと呼んでいた。僕は懐かしさに心躍っていた。


 そして今、僕は「カンちゃん」と、声にしていた。


 すると振り向いた。真っ直ぐに、こちらを見た。男の子だけど、今も女の子と見間違うような容姿。それに、僕よりも可愛く見える。女の僕から見ても……するとね、


 ボカッと、効果音が表示される程、後頭部に落ちたの、拳骨が……


「ちょっと千佳ちか、それって僕よりもってことだよね?」と、梨花は鏡を見せた。



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