第一〇九八回 ある意味では、ジューンブライド。


 ――温かな昼下がりに、ふと思った。風鈴の、爽やかな音色を聞きながら。



 スヤスヤと、二人の子供は寝息を立てている。昨夜は夜泣きで大変だった分、僕もウトウトと、眠りに誘われる。そんな中だ、広がる白い世界に、純白のウェディングドレス。


 光と影の世界。


 白と黒……だけかと思われたけど、一筋の道が開かれた。それは赤いバージンロード。


 差し出された手……僕はそっと、その手に触れる。僕の身を包んでいるものこそ、純白のウェディングドレス。そんな僕に手を差し出した人は、ティムさんだった。


 あの日の想い。ティムさんが、僕のパパになった日。


 この瞬間だけでも、その記憶は蘇った。いつの日か、夢見ていた光景……


 手を繋いで、一緒にバージンロードを歩く日のこと。憧れていた光景……


 瞳が潤んだ。仲人の挨拶よりも、この瞬間が深く深く心に残る。仲人のティムさんではなく、この日だけ僕のパパに戻ったティムさんだから。長くも短い赤いバージンロード。


 その先には、白いタキシードの太郎たろう君が待っていた。


 短い間だったけど、僕のパパはティムさん。……でもね、僕にはパパが二人いる。新一しんいちパパは血の繋がったパパ。でも、お友達の目線から僕のパパになったのは、ティムさんだけだった。七月六日、片道切符だった僕と、お友達になってくれたのが始まりだったの。


 そしてティムさんが僕のパパになってほしいと願ったのも、僕だった……


「パパ、ありがと」と、その言葉が、娘としての最後の言葉。


千佳ちか、今この時だけでも、また君のパパになれたこと、嬉しく思うよ。これからは違う家庭のパパだけど、応援してるよ、お友達として。これからも、太郎君と仲睦まじくな」


 明日になれば、ティムさんは別の家庭に戻る。西原にしはら家へ。令子れいこ先生の主人として。僕を送り出す言葉は、やはり新一パパからだ。しかしながら僕は、またお家に帰ってくるの。


 星野ほしの家と南條なんじょう家は二世帯として、一つ屋根に暮らすからだ。……そこで醒める夢。僕の傍には太郎君がいた。「よっ、お目覚めか?」と、彼は満面な笑みを浮かべながら。



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