第一〇八八回 新たな命の誕生に祝福をして。


 ――生命を繋ぐ大切な掛け声。女性が命で感じる呼吸。



 小野内おのうちさんは繰り返す。ヒーヒ―フ―と。


 この子たちは、僕の中から出ようとしている。今がまさに、その時だ。


千佳ちか、頑張れ」と聞こえる声援。この白い扉の向こう側で、パパも。これから、この子たちのパパになる太郎たろう君も。皆がいる。病院が故に、声なき声援を送っているの。


 響く僕の声。


 信じられない程の、大きな声。


 小野内さんは「声を上げた方が、少しでも痛みが紛れるからね」と、ヒーヒ―フ―の呼吸の合間に励ましてくれた。言葉はなくとも、お母さんは見守ってくれている……


 握る手の力と、手の温かさも。


 痛みの中にも、喜びがあった。


 お母さんも、僕を生む時に感じたこと。きっと共有できた。新たな生命の誕生に、祝福の思い。――痛みの涙よりも、その涙の方が、遥かに勝っているから。


 そして僕は、お顔を濡らしながらも、微笑んでいたと、後で知ることになった。



 白い景色の中を、響く産声。


 我が子の誕生だった。それも二人とも無事に、元気に。


 開かれた扉。皆が同じ室内にいる。……そう。ここに集えし人たちは家族なの。


「可愛いね」と歓声を上げる、梨花りか可奈かな。太郎君は僕の手を握って、涙ながらに「ありがとう」と言葉を刻んだ。そんな中で「さあ、御対面よ」と、小野内さんは声を掛けた。


 今日、この日に誕生した我が子たち。


 とても愛おしく、溢れる涙が温かく。


「生まれてくれて、ありがと。君たちのママだよ」


 そして、君たちのパパとママは、ここにいるよ。



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