第一〇八七回 駆け抜ける風の行方を追って。
――例えば、この紙飛行機のように。風と意気投合して飛んでゆく。
この白い空間を、白い紙で折った紙飛行機は、それが儚くとも前を向いて進んでいる。
推進力の限り……僕もまた、この数時間先に、人生で初めての経験をする。しかも女性だから経験すること。お腹にいるこの子たちは、出たがっているのがわかる。
僕の中から……
未知なる痛み。でも、その痛みを知るからこそ、我が子が愛おしい。
お母さんもきっとそうだった。僕が自ら手首を切って病院に運ばれて、一心不乱に駆け付けて来てくれた。涙が浮かんでいたのも、僕にはわかった。……今になってわかった。
今は一人のお部屋。
でも、お部屋の近くには、お母さんがいる。それにお祖母ちゃんも。
僕の初めてを知っている、歴代のママになった先輩たちだから。僕がいる、それが何よりの証明となるから。まだ先だと思っていたのに、その時はもう間近だった。
すると、この静寂が嘘のように騒めいた。
僕の体内から巻き起こったこと。赤ちゃんが出てきそうなサイン。これまでに味わったどの痛みよりも、及ばない程で……嘘のように速い展開で、僕の周りには人。
握る手は、ギュッと握られる。
その先には、お母さんがいる。
その時、僕は何を考えたのだろう? あの日に見た夢と、あまりにも酷似した風景が物語っている。正夢ということを。でも、その時の看護婦さんのお顔が、今この時になってハッキリと見えたのだ。その人は、
だからこそ、今がある。
お母さんと繋いでいる手は、僕のこの物語における伏線回収なのかもしれないの。
この先に続く、新たなる物語のための。
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