第一〇八六回 ここからが輝ける未知の世界。


 ――響く足音。明らかに、こちらの方に近づいてくる。そして、その姿を見せた。



 その主は血相を変えて、叫ぶ。


千佳ちか、大丈夫か?」と、駆け寄ってくる。知っている声というよりも、とても馴染みのある声。男性で、因みに此処は病室。僕は白いベッドの上、お布団の中で寝ていた。


太郎たろう君、僕もお腹の子たちも大丈夫だよ。ただね、これからだよ。太郎君と僕の子供たちが、いよいよ生まれるの。……傍にいて。ちょっと、手を握ってて欲しいな……」


 温かな、太郎君の手。そして、その横には梨花りか可奈かなもいる。二人は救急車で一緒に乗り合わしていた。太郎君は涙を浮かべている。不安にも勝る歓び。僕を元気にした。


「君が千佳ちゃんのナイト君だね。発見された時は倒れてたそうだけど、転んだ様子もなかったから、問題なく順調。梨花ちゃんが救急車を速やかに呼んだのが良かったね」


 と、小野内おのうちさんは言った。


 ……そうなの。先程の救急車の中では懐かしさから、お話が弾んでいた。


 その中で気持ちは和らぐも、未知なる世界への突入には、厳粛な思いは消えなかった。


「ありがと、梨花お姉」と、太郎君が感謝の思いを告げて、梨花は笑みを見せ、


「さあ、ここからは君の出番。千佳を勇気づけられるのは、やっぱり君だから」


 と、太郎君を励ます。それからは毅然とした、いつもの梨花に……僕らのお姉ちゃんに戻っていた。すると小野内さんが、じっと梨花を見て「やっぱり双子だったんだね」


 その意味は、僕らが七歳児まで遡ると思うけど。


 やっぱり夢じゃなかったことの証明へと繋げた。


 すると、スーッと白衣を靡かせ、小鷹さんが目の前に現れた。微かに笑みを浮かべて。


「それも含めて『縁の連鎖』だよ、小野内さん。何年か前だったかな、千佳ちゃんが入院した日にⅮNA鑑定を依頼されたことがあってね、その時点でハッキリとしたから」


 思えば同じ病院だった。


 僕が梨花と可奈に出会ったばかりの頃だ。手首を切って運ばれて入院した病院と。



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