第一〇八五回 訪れた日は、つまり迎えた日。


 ――高鳴るサイレンの音。まだ頭の整理もつかないまま、僕は救急車で運ばれた。



 何があったの? と問うにも、同乗している梨花りか可奈かなが懸命に声を掛けてくる。


千佳ちか、大丈夫だから」と、梨花は涙を零しながら僕の手を握り、


「今度は私達が千佳を守るから。七歳の時、あなたが私達を守ってくれたんだね。梨花と私と、あの時にもう会ってたんだね」と、可奈も涙を零しながら、僕の額に手を当てた。


「へ?」と、思わず声が出た。


 夢じゃなかった? 確かに、あの時代になかった伝説巨人のプラモデルをゲットしていた。それがちゃんと、梨花のお部屋に飾られていた。……いつからあったの? と、次第にそのような疑問が芽生えてくる。すると梨花は、そっと……


「やっと会えたんだね。あの伝説巨人のプラモデルをプレゼントしてくれた子。僕によく似た可愛い子。……千佳という名前だったね。それがあなたで、本当に良かった」


 僕は思った。


 まさかとは思うけど、歴史が動いちゃった? 十七歳の中身を持つ僕が、七歳児の姿で梨花の前に現れたから? すると……「それは違うよ」と、声が聞こえた。


 何処から? それはね、この救急車を運転している……チラリと見えた名札に、


 ――『小鷹こたか常三郎つねさぶろう


 と、表示されていたから。サーッと冷たいものが、脳を駆け巡った。


「連絡があって駆けつけたら、君たちと出会えたってわけ。もちろん名前から、もしかして……とは思ったけど、三人揃って会えるとは、本当に『縁の連鎖』ってことかな」


 と語る。紛れもなく、あの日に会った、小鷹さん。そしてまさかとは思うけど、


「本当に連鎖が好きなんだから、小鷹君って」と、同乗している看護師の名札は、


「まあ、懐かしき話はさておき、彼女の容態はどうなの? 小野内おのうちさん」と、確かにその名前……名字だった。するとニッコリと『小野内由紀ゆき』さんは、目を細めたままで、


「激しい陣痛のあと破水が起きたようね。問題ないよ、ちゃんとこの私が導くから」



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