第一〇八三回 待っている門出。陽光の中へ。


 ――日本橋にある、ホビー界のビッグな建物。そして今、そこから出る時が訪れた。



 それは紛れもなく、サヨナラを意味していた。


 ……何も語らずとも解るの。暗黙の了解にも等しく。でも、僕にはまだ、残された約束がある。梨花りか可奈かなと共に動物園前に行く約束がある。この子たちを待つ、親許まで。


 必ず、無事に届ける。


 今サヨナラとなるのは小鷹こたかさんと小野内おのうちさん。建物の出口を一緒に出た。その瞬間だった。スーッと消えていたの……すぐ傍に。すぐ後ろにいたのに今はもう……


 笑顔を残して、たった一言、サヨナラと。お外の音に紛れて微かに、微かに……


 ちょっと寂しさを覚えても、グッと堪え歩く。


 この先は未知の世界だけど、梨花と可奈が一緒だったら平気。ヘッチャラだから。


 感覚は違うけど、十七歳の歩数よりも七歳児の歩数には、きっと冒険とも言えるレベルと思うけど、誰もキツイとは言わなかった。只々、刻一刻と近づいている、その時が。


 暫しの、サヨナラの予感。


 でもね、悔いはないから。


 ここで三人が出会えたこと。きっと意味がある。喩えそれが未知の世界でも、三人一緒なら僕は勇気三百倍だから。お空は晴れ渡る青空。でも、それよりも眩いような気がしていた。陽光の中……或いは、光の中にも似たような感覚。フッと消える、周囲の雑音。


 そしてクリアーに、シャープにさえ聞こえる梨花と可奈の息遣い。まるで三人だけの世界に入ったと、その様な錯覚をするほどに。すると……


千佳ちか、ありがと、もうこの辺で大丈夫」と、梨花が言った。


「え、どうしたの? まだ梨花のパパに会えてないじゃない」


「私も、もう約束の場所だから。ホントありがとうね、千佳」


「可奈まで……二人ともどうしちゃったの? 動物園前まではまだだよ?」


 すると何? パーッと陽光が異常なまでに白く、まるで包み込むように輝きを放った。



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