第一〇八〇回 問いに困惑? 今度ばかりは。


 ――新たな表情を発見。少し赤らめる頬に潤んだ瞳。小野内おのうちさんの今のお顔。



 そしてミュートに近い声で、


「……逸れちゃったの」と答えた。それを聞いて、まあ予想はしていたけど、梨花りか可奈かなのクスクスと微々たる笑い声。堪えていたのだとは思うのだけど、堪え切れずに……


 それでもゴチンゴチンと拳骨。僕が放った。


「痛―い」と頭を押さえる二人。僕は「笑っちゃ駄目でしょ、ほら一緒に解くよ、謎」とメッという感じで二人に言った。そして二人揃って、潤んだ瞳で「うん」と合唱した。


「あ、ありがと」


 と、小野内さんは笑みを見せた。キラッと涙を光らせつつ。


「七と掛けて七と解く。そうね、まるでラッキーセブンだね。その心は九九の掛け算。四十九という数字に注目してみて……」と、歩み始める小野内さん。僕らもついて行く。


 今は七階。そこから下る四階まで。歩み寄る十列目の棚へ。


 その棚の九段目と思いきや……「あれ?」と、いつもは細い目をパッチリと開いた。


 これもまた、初めて見る小野内さんの表情だった。


 予想外なのは解る。本来なら、そこにある筈なの。僕もそう思っていたから。何があったのか? 止まらない吃逆? 小野内さんから発している? 明らかに動揺している。


 空……だった。その棚にある筈のものが。


 まさかの完売? 梨花は、ポロポロと涙を零していた。可奈もまた、それに釣られ。


 僕は、僕は堪えた。グッと堪えた。すると爽快な足音。共に力強く包む身体を……


 小野内さんを包む、男の人。その身長は百六十五センチ程……と思っていたけど、意外と百七十センチを超えていた。巨人も巨人で、そっと小野内さんの唇を奪っていた。


 フルネームは小野内由紀ゆきさん。お顔を赤くしながら目を閉じている。


 彼女の唇を奪った相手は、何と小鷹こたかさん。彼のフルネームは小鷹常三郎つねさぶろうさん。陰キャのように見える趣だけど、決める時はしっかり決める。ドキッとする程、カッコよかった。



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