第一〇六七回 めぐる三月三日も雛祭り。


 ――彷徨える梅田の地下で、めぐり合わせたのは、並ぶ雛人形。



 気付けばもう、そこは地下ではなく五階にまで上り詰めていた。


 そして見たの、赤い段に座る人形たち。そして、起きる騒めき。


 三月は、ある意味では春だけれど、まだ冬の翳りを残している。


 そんな中だ。


 声を掛けてくる子がいた。いつしか、僕のそばにその子はいた。


「君も欲しいの? この人形たち」


「……でもね、無理なの。お金ないから」


 俯き加減の僕。でも、その子はポンと僕の肩を叩いた。お顔を合わせたら、笑顔で迎えてくれた。それに……まるで鏡を見ているようなの。僕と向かい合わせに僕がいる……


 そんな感じで。


 同じ位に小さい。同い年? とも思えて。だったら、その子も見た目は七歳児だ。


 中身だけは高校生だけど。それに舞台となる時代も変化なくだ。タイムリープしたままで、でも次第に、脳内から薄れてゆくような気がするの、高校生の記憶が……脳内まで七歳児に戻ろうとしているのが薄々と。なら、その子も僕と同じに思えてくる。もしかしてだけどと思いつつも、その思たことが声になるのも、あっと言う間のことだった。


「もしかして梨花りか?」


 と、訊いてみた。……沈黙? じっと僕のお顔を見たまま、見たままで。その間の影響で(間違ってた?)という疑いの念が脳内に芽生えるも、本当にそのタイミングで、


「君、どうして僕の名前知ってる。何処かで会った? それに、どうして僕にソックリなの?」と、問い詰めてきた。両方の肩を持ってユサユサと揺すってきたの。


「ちょ、落ち着いて! 首とれちゃうから!」


 と、そんな勢いだったから。……止まった。今度は僕が名乗る番。千佳ちかと名乗るか、フルネームで「星野ほしの千佳」と名乗った。すると梨花は目を点に、或いは丸くしながら……



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