第一〇五七回 ゆく年くる年の向こう側には。


 ――明るい日。そう書いて明日と呼ぶ。明るい未来を、僕らは待ち望んでいる。



 待って訪れないなら、創り上げてゆく。


 喩えるなら、この人の様に。力強く逞しく。注文したラーメンを運んでくる葛城かつらぎしょうさんのように。そこで「へい、お待ち」と元気を与える、心に響く声。そして今日が、大晦日なだけに、ゆく年くる年を告げる、明日へと向かう鐘の音の様に。


 まずはスープ。それから絡ませる麺……


 太郎たろう君も同じ。打ち合わせしたかのような動作だけど、すべてが打ち合わせなんてしてないこと。フーッと息を吐いて「ホントお前ら、息ピッタリだな」と翔さんは言った。


 店内は何時しか、落ち着いた様子。先程までの混み具合が嘘のようだった。


 少し暗めの、橙色をした温かな照明……

 どちらかといえば、とある喫茶店のような印象に摩り替っていた。


 その時の翔さんの顔が、懐かしく思えた。来年はもう……殆ど学園で会わないから。


 高等部三年生は三学期になると、ほぼ卒業を待つだけとなる。授業は一月の間だけとなり、その後は式まで一か月お休みとなるの。思えば、もう翔さんも高等部三年生なの。


「ったく速いものだな」と、翔さんは声にした。


梨花りか、寂しがりますね。今度は梨花と一緒に来ますね」


 と、僕は思わず声にしていた。……確かにそうなの。このところ何処となく寂しそうに思えたから、梨花が。すると翔さん、プッと噴き出したかのように笑って……


「そんなタマじゃねえよ、あいつは。来たかったら千佳ちかが誘わなくても勝手に来るよ。何となくだけどな、聞こえてくるんだ、あいつの足音とか息遣いがな」


 ――ガチャリ。


 入口を入る音だ。そのお客様は、紛れもなく梨花だった。


「な、来ただろ」と、翔さんは笑い声のままで。そして真っ直ぐこちらに……


「千佳も太郎君も来てたんだね」「梨花、いつものだな」「うん、いつもので」



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