第一〇四九回 穏やかな風に、師走の陰は潜んでいる?


 ――例えば、あのスーパーの陰から。


 気配もなく、スッと現れる。その様なイメージが、僕の脳内で多発している。



 一年の終わりの忙しさが襲ってくるような前触れ。その陰のようにも思える。病院を目的地として歩む足取りが語る、これまでとは違うような、その様な翳りも感じながら。


 重厚感のある病院の中……


 しかしながら、それをも緩和されるスタッフさんの対応。

 不安は汗に流すようにと、スーッと背筋を流れていった。


 つい昨日まで、体調を崩していたから。今日は太郎たろう君が付き添ってくれたの。梨花りかはまだ、お布団の中。喉の痛みが残ると言っていた。僕は早朝に、下着までも濡れる程の汗が流れていた。少しばかりのお熱は、もう平熱に。身体も軽くなったような気がしたの。


 これなら、師走が訪れてもペースが合わせられそうとまで、僕は胸を張れて前進だ。その思考から生まれたのだと思うの、この度の順調は。二人とも、僕のお腹の中でスクスクと育っているの。感謝の思いから広がる、これからの道程。二人なら、きっと……


 きっと大丈夫。


 太郎君はこれからも、病院に付き添ってくれるという。


 とても大いなる心の支え。だからこそ、この子たちの母となれるのかな? これから経験していく身だから、まだ答えはないの。母としては、僕のお母さんが大先輩……


 だからこそ、もう素直になれる。


 僕を育てた偉大なお母さんだから。深き感謝の思いは、定期的に訪れる病院の度に肥大していく。この子たちが幸せになれるよう育むこと。生まれながらにして宿っている女の幸せなのかもしれない。そして、僕はもう結婚している。式はまだ先だけれど……


 そうだね。このお空の向こうにある、少し未来の景色。


 結婚という女の幸せも、僕は知らず知らずに掴んでいたね。


 学校にはなかったお勉強は、お母さんが知っていたということになる。あの日から、もうこの物語は始まっていたの。僕がママになってゆく物語が、やっと見えてきたの。


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