第一〇四〇回 起動した機動戦士。やっぱりあの台詞も。


 ――こいつ、動くぞ。



 それは梨花りかの口から。ということは今、目の当たりにしているということ。スケール一分の一のバンプラ。この上ない超大型サイズのバンプラ。飛び上がる程に梨花は喜ぶ。


 それを見てせつが、


「この上ない『バンプラ愛』ね、やっぱあなたには敵わないわ」と、囁く程。


 僕もまた共感している。タイミング的には、ちょうど。動き出すところだった。バスの到着から歩く距離も計算の上。大人数で動くわけだから、時間的な余裕は充分にある。


 冒頭での台詞。それはまさに、歴史の始まりの象徴だ。

 一番最初のマンダムに乗った時の、主人公の第一声だ。


 すると何処から現れたのか、梨花の傍に、スタッフを思われる若い男性が近づいて、


「さあ君、乗ってみるか?」と、声を掛けたのだ。


 梨花は喜びのあまり、もう恍惚として、お顔も紅潮しながら、


「はい、お願いします」と、満ち溢れて搭乗することになった。


 見れば、設定に忠実な再現性。恐らく外装の中のメカも、しっかりと六十分の一の|PGを拡大したような作り。それをも想像できそうなコクピット内部。僕も梨花とは近くの距離にいて、摂と並んで見守っていた。コクピットは、やはりアニメと同じお腹の位置。


 颯爽と搭乗する梨花。その視線はあらゆる計器に、操縦桿を握った。


「どお? 乗り心地は?」と、僕は問う。摂の心の声を代弁しながら。


「もう最高! 完全なる至福だよ」


 と、梨花は張りのある声がこだますると、起動音までもこだました。マンダムの両目が光る。シューッとエアインテークから水蒸気が漏れる。動く腕……少しばかり。脚も動くのだけれど、やはりステージの上なので、効果音だけで留まっている。


 それでも梨花の笑顔は、満足の域を表現していた。


 その弾む笑顔は、皆の笑顔に反映され、地球の平和を齎す程の域に達しそうだった。



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