第一〇三五回 爽やかなる出発の時、旅行は御伽の趣へ。


 ――それは学園の校庭に着いてから。バスも何だか南瓜の趣で。



 着ている服装は、その趣に反する学園の制服。因みに僕が想像している趣とは、まさにハロウィン。行き先も可奈かなの情報によれば、とあるテーマパーク……だそうなの。


 情報通の可奈でも、得られない程の情報。

 行き先はバスが知っているということだ。


 各々のお家からここに集うまでは、いつもと同じ光景だったことだろう、皆が皆。安心感を得たものは、御馴染みの面々と、まさに量産型をイメージしたような、制服姿。


 そして「おはよう」という挨拶だ。

 朝の挨拶は、皆との距離を近づけるキッカケともなる大切な言葉だから。


「来たね、千佳ちか」と、その挨拶たちに紛れ、美千留みちるは僕の前に立つ。思えば、小学生の頃には叶わなかった光景が、今ここにはある。あの頃は、いじめっ子といじめられっ子の関係だったけど、もうその奥側を見た二人だ。お互いが認め合った仲だから。


「うん、来たよ」と、交わす言葉はそんなに長くないけど、それで充分だ。


 距離が近づいたら、色々と気付く共通点。恐らく一番の理解者となる関係だった。共に℮スポーツで繋がっていた。それは小学生の頃、ゲームセンターで対戦したことをキッカケとして。これに関しては初戦から、僕が美千留に勝てたこと。……お勉強も体育も、美千留の方が勝っていた。水泳は問題外、僕が泳げなかったから。今思えば、羨ましかったのだと思える。できる子のようなイメージの美千留に。懸け離れていると思っていた。


「でもね、私は千佳が羨ましかった」と、美千留は言った。耳元で。囁くように、そっと耳元で……因みに僕は耳元が弱いの。当たる息で「ンン……」と漏れる声。


「ちょ、何変な声出してるの?」と、慌てる様子の美千留。お顔も真っ赤。


「ま、マジで耳元弱いからっ。それで? 僕が羨ましいって?」


太郎たろう君は初めから、あなたのことを見てたのよ。転校してきた日からね。……ホント何処まで色女なのよ、あなたは。小学生の時から可愛すぎたんだから、今明かすけどね」



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