第一〇三〇回 旋風の世に。


 ――それは、もうすでに始まっているのかもしれない。



 季節はもう、冬の翳りも見え隠れ。三十度を超える気温の裏側に潜んでいる。喩えるなら喩えるなら、この真昼のお空の裏に隠れている、お星様たち。お月様だって、兎さんを召喚して餅つきに励んでいる。待ち遠しいお正月に備えて。お正月には……


 また、これまで通りに。

 一富士二鷹三茄子の初夢を、この子たちを含めた家族全員で見ながら。


 生まれてくる予定は、五月。何がともあれ、元気であれば最高だから。


 でもその前に、明日から十月。


 明日は十月一日の日曜日。二学期が始まってから、もう一か月以上となる。大騒動となるように思われたのだけど、無事に今日の日も過ごすことができている。


 皆が優しく、皆が味方だった。敵なんていなかったの。


 きっと初めから。僕は見誤っていたの。いじめられていた頃、貧困だった頃、不登校の頃だって、周りが敵に見えていた。悪いことだって……していた。法に触れる悪いこと。


 それは、自身の中にあるものだ。


 それを教えてくれた、お友達がいた。その子がお友達だったということを、あの日に知り得たから。それがウメチカ戦だった。第一回目のウメチカ戦……


 ある時、美千留みちるは言った。


千佳ちか、これからもお友達だよね? 赤ちゃんが生まれても、私たち……」


「何言ってるの? もちろんだよ。それから、ありがとうだね、美千留に」


「どうして? 私はまだ、何も返せてないよ、あんなに酷いことしたのに」


「……そのお陰だよ。この子たちを守れるようにと、強くなれたこと。美千留は僕の

心を理解してくれた本当の、お友達ってこと。ずっと守ってくれたんだね、僕たちのこと」


 ……僕が妊娠しているということに対して、心無い言葉たちから守ってくれていた。


「修学旅行、もちろん参加するよね、千佳」と、僕の脳裏に、その言葉を残しつつも。



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