第一〇二九回 絵になる夕陽にロマンス。


 ――階段を上る、手を取り合って。一歩ずつ、一歩ずつ……そうそう。



 見える色はもう、茜色。美しすぎる夕陽の色。


 今日一日の出来事をしみじみと感じるような、そんな色に情景も……


 身体の重み。それがとても愛おしく、その本質はやはり母性なの……きっと女が生まれながらにして持っている本能。そして結婚は、女の幸せ。繋いでいる手の温度が語った。


 僕の体内にも、神秘な世界が広がっている。


 この小さな身体の中に、我が子たちがいるのだから。とても幸せと感じるの。


 可奈かなの気遣いに感謝する。涙が出る程……


 最近、とても泣き虫になったような気がするけれど、喩えるなら大人の階段。


 二階から三階へ。三階から踊り場を通過して昇降口。皆よりもゆっくりなペースが精一杯だけど、噛み締める道程。太郎たろう君と歩む未来への道。この階段も同じだから。


千佳ちか、もうすぐだから」

 と、太郎君が背中で言う。彼もまた、僕と同じ……


 涙を見せずに、大人になれないから。そして皆の前では、笑顔でいたいから。


 長いようで、短い道程だったの。昇降口までの道程。その扉は? 内から開けられるのだ。鍵はかかっていなくて、広がるお空の世界。それはきっと、陸君りっくんが言っていた世界。


 ――神秘な世界。


 夕陽の景色から、夕闇の世界へ。


 薄っすらと見えるお月様の近くには、お星様の輝きもあった。空にキラキラお星様だ。


 おもちゃが箱を飛び出すように、ナチュラルなプラネタリウムと化した屋上。


 語り合う可奈と陸君。何を語っているのか? それはロマン。女のロマンと男のロマンが共有している会話の内容。可奈は天体について。陸君は地球誕生の歴史へと、入っていた。でも驚いたのが、可奈のマシンガントークに対応している陸君。梨花りかそらちゃんが昇降口の扉を開けた僕らに気付いて「こっちこっち」と、手招きした。



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