第一〇二七回 一等星が見える時刻には。


 ――旋風を感じてから、時が過ぎゆくのが速くなったような気がする。



 お空の表情も激しく、快晴や曇り、水蒸気のような雨が、暑さに拍車をかけて……違う種類の猛暑と変化する。ミストサウナのような感じの、じっとりとした感覚だった。


 教室に入ると、温度は安定する。


 授業を受ける、その中で違和感。身体は自分だけのものではないと、そう主張してくる感覚。お腹の中から蹴っているの。最近は、つわりも治まってきたから。


 ――妊娠初期から次の段階を意識し始めていた。


 体調にも変化が現れ始めた。給食……残さず食べられるようになった。でもそこを越えて、持ち込んだ菓子パン。明らかに異常な食欲だ。近くにいる梨花りかも、可奈かなも何も言わずにいつも通りに。太郎たろう君も、見守る中で「放課後、どうする?」と一言。


「もちろん一緒に行くよ、可奈がそれで良ければ」


「私なら、その方が助かる。千佳ちかにはそらちゃんの相手してほしいから。でも、無理はしないで。途中で帰るなら帰っても大丈夫。梨花もいるし、太郎君が送ってくれるから」


 なら、梨花が僕の代わり。


 そして太郎君が、僕をお家まで送ってくれる。……すると、


「今日は特別。一番星が見えるまで大丈夫だから。その頃にパパが迎えに来るって、言ってたから、大いに楽しも、この間のプラネタリウムの分まで」

 と、梨花が言った。


 齎す皆の笑顔。集まれば星座になるような、そんな輝きを放っている。


 そして放課後。瑞希先生がホームルームで一日の授業の終了を告げてから、散り散りとクラスメイトたちは教室から出てゆく。夕映えの部類に入る景色の中で、僕らもそのクラスメイトたちの動きに混ざる。或いは便乗して、足並みを、途中まで揃える。その向こうに約束の場所……もうそこには空ちゃんと椎名しいな君の姿があった。「ヤッホー」と手を振る空ちゃんの横で、椎名君が「案内してくれたお礼に、バイオリン披露するよ」と言った。



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