第一〇二三回 奥深く、九月の始まりに。


 ――真の二学期と、僕は区別していた。九月一臂からが、真の二学期と。



 気が付けば、蝉時雨はもう聞こえなくなって、台風の卵が量産されている。


 今年は特に、十年に一度と言われているけど、猛暑の種類は違うものに思えるの。健康には気を付ける、何があっても。……太郎たろう君は、口を酸っぱくしてそう言う、繰り返し。


 この頃になると……


 心無い人も、その言葉も聞こえることはある。


「ほらほらアイツだよ、二年の女子を孕ませた奴」「どんな面して来てんのだかねえ」


「それにあの子、やっぱホントみたい、お腹……」「有名な双子だけど、見分けは付きやすくなったね、妹の方」「見かけによらないね、生徒会で真面目な子って意外に二面」


 登校の時とか、下校の時も。学園内を歩く時も。


「気にするな、言いたい奴には言わしとけばいいんだ」と、太郎君は言う。思えば太郎君の方が、僕よりも悪口言われているのに……この前は、我慢できずに、僕は鞄を投げつけたことがあったの。涙も零しながら「何がわかるの? 僕らのこと。遊びじゃないんだ」


 そんなことも、あったの。


 でも梨花りかも、僕より前にキレたことがあったの。


 それに対しては校長室……


 呼び出された、梨花も僕も。鞄を投げつけた相手。それだけじゃなく殴ってもいたのだから。謝れと言われた。謝罪の場となった校長室で、男子生徒二人、同じ二年生だった。


「すみませんでした……」


 と、僕も梨花も、悔し涙を流しながら。


 あの後、教室には戻れずに、屋上と三階の境の場所にある踊り場の、ぼんやりとした窓から零れる光の中、二人して号泣の域で。……可奈かなが心配して見にきたそうだけれど、声が掛けられなくて、そのまま戻ったと、教室まで。泣き疲れ、落ち着いた頃には黄昏。


 教室に戻れば、そこに太郎君が待っていた。……「帰ろ、千佳ちか、梨花お姉」と一言。



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