新・第三章 ――旋風編。

第一〇二一回 九月まで待てない二学期。


 ――始まりは登校から。早朝にも拘らず、真昼のような炎天下。その中を歩く。



 電車は、もう満員御礼。


 席の譲り合い、車内は『ゆとりゆっくりゆずりあい』の空気がもっと欲しい以前に、初めから座らない人が多く、逆に空席が残るけど、席以外の所が混雑している状況。


 僕と梨花りかも、隅っこで囲まれて……


千佳ちか、もう少しだから」と、まるで僕を混雑から守るように、向かい合わせで立ってくれていた。それに今までにはなかった、僕への声掛け。明らかに意識しているの。


 服の上からでもわかる、大きくなりゆくお腹。

 見た目はまだ、気付かないであろうと、思われるの。そう思いつつ、下車するホーム。


 四駅という名の駅のホーム。でも、駆け込み乗車の面々が僕に向かってきたの。……本当に間一髪。目の前を疾風のように横切った。ほんの十センチの差で躱していた。


 少しばかりの恐怖感。

 当たっていたら、コケていたら、そう思うと。


 梨花が僕の手を繋ぐ。歩みを始めるためにと。


 道行く通学路。夏休みも葉月はづきちゃんの絵のモデルのために歩いたから、思っていたよりも日常的な風景に見える。心も安心感を得る。歩き続けるこの先も楽しみだって。


 そうしているうちに、顔を合わせる面々たち。


「おはよ」と可奈かなせつも。「よお」と、太郎たろう君だって。僕にペースを合わせてくれた。歩くペース。思えば今日は、二十四時間テレビが終了してから、まだ二十四時間も経っていなかった。多分十二時間さえも。八月三十一日になる前に夏休みは終わったの。九月になる前に二学期は、もう始まっていた。小学生は、もう盆明けから登校しているの。


 夏休みの宿題……


 葉月ちゃんは去年と同じくギリギリ。そのことが発覚したのが、何と絵を描き上げた時だったの。その翌日は二十四時間テレビで走るランナーの風格で宿題を完走した。



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