第一〇二〇回 今日繋がるエピソードは、明日からの前進のために。


 ――窓の外は、光る雨。



 雨音が制する心の色……


 僕はお家で一人だった。小学四年生の夏休み。膝を抱えて堪える涙……


 お母さんと喧嘩した。二人で遊園地へ行く約束だったの。でも、守れなかった約束。本当は解っていたの。お母さんは生活のため、お仕事に励んでいる。僕を養うため、一人で一人きりで……急なお仕事で、やむを得ないこと。でも、僕は我儘で……


 夏休みの唯一の思い出を作りたかったの。


 もう何年も、お母さんと遊園地へ行ってなかったから。お母さんに、あの日のような笑顔になってほしかったから。そう思いつつも、今は一人きりでお部屋の片隅……


 溢れる涙を打ち消すようにと、テレビを起動した。


 そこで目の当たりにするもの。瞳に映ったものは、チャリティー大喜利だった。


 そこでは、オジサンたちが答える。お題に対しての答え……紫の着物の人は、難しい社会情勢を斬り込んで、水色の着物の人は、ちょっと僕には大人の世界。やや理解は難しくも、クスッと……笑えた。気が付けば笑っていたの。そこからだった。


 お腹が鳴った。思えば食べていなかったお昼ご飯。


 お母さんが用意してくれたお好み焼き。それを温めハグハグと食した。それもそれもテレビの前。僕は夢中になっていた。――二十四時間テレビ。愛は地球を救うに。


 もう静寂は破られていた。


千佳ちか」と、聞こえるお母さんの声。お仕事から帰ってきた。……僕は「お母さん、ごめんね、我儘言って」と謝るも、クスッ……と、お母さんは笑みを浮かべて、


「Xマス。一緒に遊園地。サンタさんからのプレゼントだよ」と言ったの。


 それからは、お母さんと並んで見る、二十四時間テレビ。


 サライが聞こえる時、見上げるお空。クリアーな夜の帳。


 窓越しから、煌めくお星様とお月様が、僕らを温かく見守ているようだった。



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