第一〇一五回 お盆の里帰り時期。


 ――お外と遮断された空間。安全な空間に僕らはいた。



 通り過ぎる風は、余りにも緩やかな速度で本州を横断している。


 緩やかな速度ゆえに、その勢力は強さを保ったまま、激しく硝子戸をノックしている。


 台風七号が上陸したの……


 僕は今、お部屋の中にいる。効果音はカタカタ……と、キーボードを叩く音のみ。モノクロな風景は、お外も内も同じ。何故ならば、里帰りが中止になったから……



「ちょっと千佳ちか、そんなに不機嫌にならなくても、また来年が……」


 と、梨花りかは言う、言いかける。さっきから僕の傍にいる。同じお部屋の中で、同じPCの画面を見ている。それはそれは、とある小説サイトの『書くと読む』で、千回を超えても連載を続けている『ウメチカ』の、これから更新しようとしているエピソードだ。


 それって読者もまだ知らない内容。


 それを、文字通りに立ち読みしているのは、お姉ちゃんゆえの権限だろうか? 少しばかり抵抗はあるものの、僕は……「来年はもう今年じゃないの。進んでるの、時間はね」


 そうなの。来年はもう、お腹にいるこの子たちは生まれた後……


 僕はもう、ママになる。太郎たろう君はパパに。その前には戻れない時間。お墓参りで告げることのできない、旧一もとかずおじちゃんへの報告。いの一番に伝えたかった想いは募るの。


 梨花に対して、少しキツイ言い方、後悔した。


 僕のこと心配してここにいるのに、ごめんねの言葉が出てこないの。……すると、


『千佳、そんなに僕のこと想ってくれてたんだ』


 と、声が聞こえた。梨花? ううん、明らかに違う。振り向けば、そこには白い趣のボヤッとした旧一おじちゃんがいた。僕は、僕は……「おやおや、どうしたんだ? 急に泣いちゃって? まあ、急に現れたからかな?」と、旧一おじちゃんは笑うけど……


 ……前より薄いの。旧一おじちゃんの姿。今にも消えそうな感じだったから……



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