第一〇一四回 夏の風物詩たちは。
――今はまだ昼下がり。黄昏には遠いの。
共に歩く帰路。最寄りの駅にもまだ……多くの歩数を要するから、風鈴の音色に誘われる。学園から近い駄菓子屋。僕は、手を繋ぐ
「おやおや
と、店主が迎える。バリバリの関西のおばちゃん。たまに近所のおばちゃんたちが集まると、僕も含めて井戸端会議と化する。……でも、今日は違う。とっても静かだ……
なので、
ダーリン、ラムネを買ってきて……
と、とある歌詞が脳裏を過るも、そのまま歌声となって奏でたの。
「綺麗な歌声やね、ウチの娘とデュエットしない?」
と、おばちゃんはラムネを二つ持ってきた。その支払いは、ダーリンこと太郎君に委ねられた。太郎君は小銭をガマ口財布から出現させた。……えっ? ガマ口?
「今時珍しいねえ、ガマ口。いいセンスしてるよ、あんた」
と、おばちゃんは大喜びだ。さらに続けて、
「カードやスマホでの支払いが殆どなのに、いいねいいね、あんたいい旦那になるよ」
とまで言って……
(……もうなってるよ。僕の素敵な旦那さんに。そして、この子たちのパパに)と、声なき声なら発言の自由は、あるあるだと思うの。風に乗って聞こえる風鈴の音色……
「ほら、ラムネ」と、太郎君は手渡す、僕の分。
炭酸が弾ける音。
カラカラと、中で踊るビー玉。乾いた喉は欲しがっていた。整える爽やかさ。スッキリとしたものを、夏の風物詩たちは創り上げている。僕らが未来を築き上げるように。
繊細な音色の中にも、逞しさを感じる。
蝉時雨と調和を図りながら。何があっても青春を、僕らと共にあるためにも……
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