第一〇一三回 とある帰り道には。


 ――午後三時。この時間が、ある意味では会社で喩えるなら定時という時刻。



 帰り支度。葉月はづきちゃんは一階にあるシャワー室で、身体に付着した絵の具を落とす。それはまた……僕も同じ。触れ合う身体は洗いっこにまで進展していた。


 流れるお湯は、脳内に青春な曲も流した。


 駆け抜け駆け巡るフレーズたちとともに、校歌も、何よりもウメチカで流れたエンディング曲。そう、梨花の歌声に載せた第一回ウメチカ戦のエンディングで流れた曲だ。


 ――愛の詩。


 最近になってわかった曲名。今はもうウメチカ戦のテーマ曲として定着している。僕はこの曲から出発したと言っても過言ではなく、葉月ちゃんが八月にアトリエで絵を描くのと同じくらいの定番と化している。そしてシャワーの後で流れるのは、爽やかな風。


 それに、


 梨花りかが迎えに来る時刻だけど……


「遅いですね、梨花先輩。この暑さでバテたとか、心配ですね」


 と言いながら、葉月ちゃんはスマホを操作する。梨花をコールしていた。ここからでも聞こえるコール音。出る気配はなさそうで……と思っていたら、ササッと真っ暗に。


「だあれだ?」


 と、どう考えても聞き覚えのある声。それに、男性ときたら、


太郎たろう君ね」


 と、答えた瞬間、パッと明るくなった。視界に戻る景色。ここは一階の出入口で、目の当たりには太郎君がいた。幻でも何でもなく正真正銘の太郎君。


「梨花お姉がよろしくってな。今日から俺の役目」


 そこから読み取れるのは、梨花のサプライズということ。すると「ブーッ」と葉月ちゃんが言うの。クイズ番組でよくある不正解の効果音。


「正解は、僕が仕掛けたことだから」と、葉月ちゃんは胸を張って言った。



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