第一〇一二回 ふわり、ふわふわ。


 ――ここから見える、開放的な景色へと。



 このアトリエが、まるで雲の上にあるように思える時刻。


 そんな空間が、ここには存在する。


 十三歳の時のように、また天使にも似た……ううん、天使なら、このお腹の中に。羽搏く時を、僕は待ち望んでいる。もうすぐかな? 僕のお腹を蹴ってくるの。


 そう思っていると、


「どうしたんですか? 遠い目をして」と、葉月はづきちゃんが声を掛けてきた。


 諄い様だけど、ここは二人だけの空間で、初めは恥ずかしかったのだけど、今はもう慣れていた。全裸ということ。思えばもう……満四か月を迎えようとしている。


 ヌードは、赤裸々に今の状況を物語っている。身も心の中まで……


「どうして葉月ちゃんは、僕をモデルにしようと思ったの?」


「どうしてでしょう。……好き、じゃ答えになりませんか?」


「好き、と言っても、見ての通り、僕は女の子だし……」


「恋愛とは違った好き、なのでしょう。男の子も女の子も関係なく、千佳ちか先輩だからモデルにしたかったのです。今回のことで、益々好きになっちゃいました」


 と、葉月ちゃんはスーッと、傍に寄ってきた。目線の位置を合わせて、座りポーズの僕に対して目の前でしゃがんで。葉月ちゃんも全裸。絵の具が所々に付着していた。


「そして今回のテーマは『誕生』……

 ここは雲の上にあるような、ふわふわした風景。千佳先輩はここから始まるのです。これから誕生する新しい命と共に。そして僕は包み隠さずに祝福します」


 ――大好きな、千佳先輩の赤ちゃんたちを。


 柔らかな、葉月ちゃんの笑み。なので僕は……


「あらあら、スマイルですよ、千佳先輩。祝福に、涙は似合いませんから」


 と、ソフトに……ふわりと包み込んだ。それはまるで天使の鼓動のように……



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